
冬は読書がはかどるー最近読んだ本
一時帰国の長距離移動や、イギリスの暗くて長い冬は、読書にもってこいだ。時期的に仕事が落ち着いていることもあってか、心にも余裕がある。
そんなときは本を開くに限る。最近読んだ本を記録しておこう。★の数は個人的なおすすめ度合いであります。
『僕らはソマリアギャングと夢を語る ― 「テロリストではない未来」をつくる挑戦』 ★★
永井陽右(著) 英治出版 2016/5/9発売
昨年末に『紛争地で「働く」私の生き方』を読んで衝撃を受け、同著者の前著も読みたいなと思い、日本へ向かう機内で読了。
ソマリアや世界の紛争地域でテロリストの投降や社会復帰支援を行う著者が、高校生のときに見たニュースをきっかけに強い危機感と使命感を原動力に、大学で仲間を集めNPO団体を立ち上げ、試行と苦悩を経て現在の活動に至るかが臨場感を持って知ることができる。すごい、としか言いようがない。
『共感という病』 ★★★
永井陽右(著) かんき出版 2021/7/16発売
こちらも『紛争地で「働く」私の生き方』の著者によるもので、他の著作とは系統が違いそうだなと興味を持ち手に取った。
いまや「共感(※)」すること・してもらうこと、「共感」できるかどうか、が社会活動や人間関係の評価軸のひとつになっている。これを「共感中毒」ととらえ、それがもたらす負の連鎖や弊害について、著者自身の活動から問題点を深堀り、「共感」に依りすぎない方法(戦略的対話)を提案している。
※共感には「認知的共感」と「情動的共感」の分類があるそうで、本書では「他者の感情経験に直面した人が、認知的および感情的に反応すること」と定義が置かれている。
人々の生命や安全保障、国際機関レベルでの協業やネゴシエーションに関与している著者ならではの緊張感で、ひょええ、と声が出た読了感だった。
巻末の内田樹氏との特別対談は、再編成しているとのことだが、納得する部分と話が噛み合っていないような部分があって、ある意味興味深かった。
『High Conflict よい対立 悪い対立 世界を二極化させないために』 ★★★
アマンダ・リプリー (著) 岩田佳代子 (翻訳) ディスカヴァー・トゥエンティワン 2024/6/21発売
日本で再会した友人の薦めで手に取り、イギリスへ戻る機内で読んだ。
上述の『共感という病』と同時並行で読んでいたところ、奇しくも内容に共通する点があり、のめり込むように読了。人々やグループの間でどのように対立がうまれ、分裂が深刻化していくのかを様々な対立の事例を交えながら考察されている。対立の渦中に入ってしまうことの辛さを思い出した。
過去に起こった対立の経緯を第三者の視点で追うことの大きな意味は、「不健全な対立は繰り返さない」ように努力する、ということではないだろうか。何度も読み返したい本。
『紛争地の看護師』 ★★★
白川優子(著) 小学館 2023/10/6発売
「紛争」「対立」に関する購入履歴が続いたからか、Amazonがオススメしてくる関連書籍を素直にポチポチしている。
「国境なき医師団」に参加した著者が、イラク、イエメン、南スーダンなどの紛争地へ看護師として派遣された際の活動手記。医療物資も設備も限られている中で、爆撃などで負傷した市民の治療にあたっては、失われていく命も目の当たりにする…
著者自身の、心身の健康や生命の安全すら危うい中で20回近くも紛争地へ赴いたというのだから、その使命感と行動力は尊敬してやまない。いまもなお世界で起こっている悲しみということを忘れてはならないと思う。
『教誨師』 ★★★
堀川惠子(著) 講談社 2018/4/13発売
SNSで目に留まり、「教誨師(きょうかいし)」ってなんだろうと思い購入。
半世紀にわたり、死刑囚と対話を重ね、死刑執行に立ち会い続けた教誨師・渡邉普相。「わしが死んでから世に出して下さいの」という約束のもと、初めて語られた死刑の現場とは? 死刑制度が持つ矛盾と苦しみを一身に背負って生きた僧侶の人生を通して、死刑の内実を描いた問題作! 第1回城山三郎賞受賞。
扱われているテーマが重く、読み進めるのが辛い場面が何度もあったが、心して読了。「いろいろ考えさせられた」で終わらせたくないが、感想を語るには言葉を選びあぐねてしまう。
『オードリー・タン 私はこう思考する』 ★★
オードリー・タン (著) 藤原由希 (翻訳) 楊倩蓉 (その他) かんき出版 2024/11/7発売
オードリー・タンに関する本を読んだことなかったな、と思い立ち、数多くある関連書籍のうち最新作(たぶん)を読んでみた。
中学時代にホームスクリーンで独学を始め、大学の講義に通っては独自の知識体系を構築していく。インターネットを通じてコミュニティをつくり、10代で自身の会社を立ち上げ、まだリモートワークが一般的ではなかった時代に、世界中を周りながら価値観を形成していく。
本書は本人の執筆ではなく、取材をもとにしたライターによる「オードリー・タンまとめの書」という感じ。ちなみに彼女はSF小説を愛読しており、なかでもテッド・チャンをすすめているというのを知って、「やっぱり!」と嬉しくなった。
『ユーモアは最強の武器である―スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』 ★★
ジェニファー・アーカー (著) ナオミ・バグドナス (著) 神崎 朗子 (翻訳) 東洋経済新報社 2022/9/9発売
アメリカやイギリス、ヨーロッパの同僚と働いていると、彼らが繰り出す「ユーモア」のセンスに膝を打ち、一瞬にして場が和む(あるいは沸く)場面に多く出会う。
グローバルな職場におけるユーモアのセンスを磨きたいと思い、本書を読んでみたところ、なかなか良かった。ユーモアのタイプ、利点、実例、そぐわなかった場合とそのときの対処などが参考になる。日本やアジア圏では配慮のスイッチを切り替える必要があると思うが、知的ゲームを感度高く楽しめる人でありたい。
余談だが、近年のビジネス書には、「◯◯◯◯は最強の武器である」系のタイトルが氾濫しているように見受ける。本書の原題「HUMOR, SERIOUSLY」の味わいを受け継いだ邦題を捻り出してほしかったなぁ。
『問いの編集力 思考の「はじまり」を探究する』 ★
安藤昭子(著) ディスカヴァー・トゥエンティワン 2024/9/20発売
年末の一時帰国時に、書店で見かけて購入。著者は、超人的な読書量と知識量で知られた松岡正剛氏に師事していたと、本書を開いて知る。
私自身、「問い」から思考を深める、という行為は日々漫然と、または他者との対話から自己流で探求している。本書から学び取れるものはなんだろうと読み進めたが、私にはよくわからなかったというのが正直な感想。「編集力」の概念が掴みきれず、全体的に腹落ちに至らなかった感じ。
小説 『レーエンデ国物語』 ★★
多崎礼(著) 講談社 2023/6/14発売
一昨年、一時帰国した際にあちこちの書店で平積みされていたのを見かけ気になっていたところ、サブスクしているKindle Unlimitedで配信されたので読了。
不朽の名作『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ著)を思わせる装丁、『ナルニア国物語』(C.S.ルイス著)を彷彿とさせるタイトル、『もののけ姫』を感じるイラストは、興味を引かれる組み合わせだ。
素敵な世界観のファンタジー小説で、物語の舞台となるレーエンデの山並みや古代樹の森、そこに住む人々の様子を想像しながら読むのが楽しい。「銀呪病」に冒されると、全身が銀の鱗に覆われ数年で死に至るという恐ろしい病だが、『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』にかなり影響を受けているようにも思う。
少々の既視感が否めないが現実逃避するにはもってこいのファンタジーなので、複数出ているシリーズも読んでいきたい。
小説 『スメラミシング』 ★
小川哲(著) 河出書房新社 2024/10/10発売
これまた書店で平積みされていたのを見かけ、何気なく手に取って購入。SF短編集という位置づけなのだろうか、難解ながら不思議で宗教的な短編がいくつか収められている。
あぁなるほど、と結末に合点するものと、なんだったんだろう、と疑問符が拭えないものとあり、読者によって合う合わないが分かれそうな作品。本書で著者を初めて知ったので、他の作品も読んでみたいところ。