コーディネーターはスワンボートに乗ってⅤ①§ Lakta Vojo : Milky Way §
晴れ渡った空。湿度の高い空気。なまぬるい風。運河の両脇、のんびりと流れる景色は、南国リゾートを思わせる陽気な植物の連続。
俺達はアーロに戻らず、次のポルクを目指している。いつの間にか、ハウスボートの屋根が俺の定位置に。緑化された屋根は心地よく、周囲の景色もなかなかのもの。だけど、俺の心の中は、どんより曇り空。
昨夜、不安を映像にしたような夢を見てしまった。ちゃんと眠りたい反面、眠るとあんな夢をみてしまうから、嫌だ嫌だ、と思って眠りが浅くなるんだろうか。夢は眠りが浅い時に見ると聞いたことがある。深く眠るのであれば、やはり眠ること自体は避けられない。不便だな、人間の脳って。
考えるのが面倒になった頃、先行していたマルコが戻ってきた。
「お帰り」
「ただいま」
「お疲れ様、どうだった?」
「目的地まで、そう遠くないよ。着岸の前にちょっと話しておきたいことがあるから、みんな呼んできてくれる?」
全員がデッキに集まると、マルコは空からの様子を紙に描いた。
「上から見ると、こんな感じ」
マルコが描いたのは、アルファベットのHのようなカタチ。
「流れを挟んで左右に街があるんだけど、どちらも岸に沿って割と背の高い塀があって、出入りするには門を開けてもらわないといけない感じ。それとね……」
言ってマルコは、Hの横棒を指した。
「ここは大きな橋なんだけど、渡れないようになってる」
ん? と言った感じで、全員がマルコを見た。
「両岸とも橋のたもとに塀を作って、意図的にふさいでいるんだ。立派な橋で壊れている様子はないんだけど、まるで互いの侵入を防いでるみたいで、なんかヤな感じ。ここってひとつのポルクだって聞いてたけど違うの?」
首を傾げるマルコ。フリーコックは、ちょっと待って、とジェスチャーを見せ依頼主からの手紙を開いた。
「僕が暮らすポルクは川を挟んで対立しています、とある。あれ? 言ってなかった?」
「聞いてないよ。ちゃんと共有してくれないと」
「すまん、気をつける」
「よろしくお願いします」
それで済ませるなよ、対立とは物騒じゃないか。もっと慌ててくれてもいいと思うんだけど。
マジか、という顔をしているのは俺だけで、みんなそれぞれ、自分の持ち場に戻ろうとしている。
昼間の操縦担当のチェルボは、どちらの岸につけようかマルコと話している。ブランカは降ろす荷物の分別。フリーコックはハシゴに手をかけ、屋根に上ろうとしている。
「おい、対立ってホントなのか?」
「さあ」
「さあって」
「依頼主がそう言うんだから、ホントなんじゃないか?」
「そんなところに行くのかよ」
「そりゃあ仕事ですからねェ。ほら、マサキも準備。ブランカを手伝ってやってくれ」
言いながら、フリーコックはハシゴを上って行った。
「マサキ。さっさとやっちゃおうよ」
振り返ると、バッグを抱えたブランカと目が合った。細い両手に抱えたバッグを譲り受け、ブランカの両手に自由を与える。
「なあ、さっきの、前もって聞いてた?」
「さっきのって?」
「ポルクが対立状態だってこと」
「うん、知ってた。今回、私メインだし」
「メインとかあるんだ……大丈夫なのか? 対立って、内戦とかじゃ」
「そういうことじゃないみたいよ。まあ、行ってみないとわかんないけどね。ヤバイと思ったら逃げればいいじゃん。って、仕事だからそういうわけにはいかないけどねー」
「え、ヤバイ可能性あんの?」
「さあ」
「さあって」
フリーコックかよ、とツッコミそうになった口を閉じ、荷物を所定の位置に運ぶ。必要な荷物を運び終え、舳先に移動。ハウスボートの行き先に視線を。ボートは徐行中。
「おーい、マサキ」
屋根の上からフリーコックの声。
「お前も、こっちで見てみるか? 上から見ると、なかなか迫力あるぞ」
「迫力?」
誘いに乗って屋根へ。
「ほら、スゲーだろ」