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鷹守イサヤ
2016年9月10日 14:57
店の前でチェシャ猫と別れ、グリフォンは最初にエイダを見つけた場所へ戻った。警察に行く前に、どちらの方向から来たかなど確認しておこうと思ったのだ。 そこはいくつかの街路が交錯し、カフェやレストラン、ブティック、書店などが集まった広場だった。ウィンターローズがある辺りよりずっと賑やかで、通りをまっすぐ行けば〈人形館《ドールハウス》〉へもそれほど遠くはない。「どっちから来たか、覚えていますか?
2016年9月16日 14:09
その頃エイダはすでに広場からずいぶん離れた場所まで来ていた。別にグリフォンから逃げ出そうとしたのではなく、手をつないで歩くうちにたまたまとある人物の姿が目に留まったのだ。 それは、つい先ほどウィンターローズの店内でちらっと見かけた人物であり、エイダの記憶にある三人の人物のひとりでもあった。あのときは突然ものすごい勢いで飛び出して来たので、びっくりして固まってしまったが……。 衝動的にエイ
2016年9月28日 18:16
長い長い初夏の夕暮れ。ほんのりと残照を留める静かな書斎で、レイヴンはひとりパソコン画面に見入っていた。何度も検索を繰り返しながら必要なデータを集め、醒めた表情でデータ群を一瞥すると彼は椅子の背に深々ともたれかかった。 外はまだ昼間のように明るい。それでも日はだいぶ傾いて暖かい空気に涼風が混じり始めていた。街のざわめきが微風に乗って微かに響き、レイヴンはふと顔を上げた。物憂い金色の光がひっそり
2016年11月21日 15:22
書斎に戻ったレイヴンは、受話器を手にデスクチェアにもたれた。「待たせたな」『──ふふっ、お元気そうで何よりです』 軽口めいていながら慇懃にも聞こえる声が流れ出る。「電話とは珍しいな」『久々に出てきましたので、ついでに。〈煉獄《シェオル》〉の散策もたまにはいいものですね。そぞろ歩きにはもってこいの季節になりました』 レイヴンは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。「ご丁寧に散