マスクの下でいい人をやめる
友人に、すごくイイ女がいる。
3人も息子がいるようには、とても見えない。
頭のキレといい、お洒落といい、肌の艶やかさ、ショートカットにしたその髪も、ちらりと見えるピアスのセンスも。
低めの声のトーンも。
音楽の趣味も、好きな映画も。
お酒を飲んでいる時の仕草も。
長く使い込まれた時計はフェイスの大きいタンクで、
ちらりとみて、「そろそろかな。」と言うタイミングも絶妙だ。
私好みのイイ女である。
次男と三男は双子で、
「可愛かったでしょうね。」
という質問には、
「まあ、そういうことにしておこう。」
と答えている。
大変に決まっている。
「下の双子の受験が終わったら自由になれる。」
っていうことは、今は自由じゃないわけ?
「まぁね。」
なんでもこなしてしまうからわかりにくいだけで、普通のお母さんとして、日々の大変さを乗り越えているのは、どうやら本当らしい。
そして、娘として、自分の親への対応にも頭を悩ませている。
「親にね、言いたいことを言わないで来たわけ。
そうしたら、今になって言いたいことが我慢できなくなってきた。」
大人になってからの娘と母親の葛藤は、多く聞く。
「もう。いいんじゃないの?いい子はやめても。」
と私が言うと、びっくりしたようだった。
「やめてもいいのか!」
「いいと思うわ。
他の人に対してだって、いい人をやらなくていいわよ。
ナチュラルにしてるあなたで、充分素敵だもの。」
そして、私は彼女に、握手を求められた。
「母親、娘、妻も、全部役割だもん。今は大変だけどね・・・。でも、自分っていう役は一番大事にしないとね。出来ないことは、出来ないって言っていいんじゃないかな。」
と私自身にも言い聞かせるように、言った。
同じような性分で、頼むのが下手なのだ。
頼むくらいなら自分でやる方が早いと思ってしまうので、周りも育たないと言う弊害が起きる。
日々の忙しさに追われるうちに、生活場面に溶け込んでいる自分がいる。
ただの風景みたいに。
自分を見失ってしまって、
私って、誰だっけ?なんだっけ?
そうなると、もう他人との境界線はなくなってしまう。
しばらくして、LINEにこんなメッセージが入った。
「あれから、マスクの下で、ベーっ!と舌を出している。
マスクって便利😝。」
マスクは、いい人をやめる練習にも使えることがわかった。
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