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モード・ルイス 幸せの絵具
『幸せの絵具 愛を描く人 モード・ルイス』をどうしても観たくて、勤めを休んで観に行ったのが2年前になる。
サリー・ホーキンスの素晴らしい演技力で、モードの人生が綴られていく。
私の好きなイーサン・ホークが夫役で、静かな愛情が心を打った。
田舎の風景、動物、鳥、草花をモチーフに、シンプルなタッチで温かい絵を描いた画家だ。
映画の中で、何度涙しただろう。
不遇な中でも、自分を表現し続けたモードの姿はひたむきで、無心で壁に描く花の絵に純粋な心を感じた。
素朴なモードの絵に感銘を受けて、カナダ大使館で行われていた「モード・ルイス展」にも行った。
花の描かれた缶や、生活用品。魅力的な展示だった。
素直に筆が動くということ・・・降りてくるとも言うが。
美大に行っていた時、半地下のアトリエで大きなキャンバスに向かっていると、
トランス状態のようになることがあった。
無心になりすぎて、気が付くと何時間も経ってしまっている。
絵を描いたり、音楽をやったり、文章を書いたりする方には、ご経験があるかもしれない。
油画科の先輩は、朝、アトリエに入ってから夜終電まで、誰が話しかけても返事をしないくらい入り込んでいたそうだ。
ついに肩を叩かれ、
「ねぇ。100回呼んだよ!もう、終わりにしないと終電に間に合わないよ!」
と教えてもらうまで、記憶がないのだという。
「トイレはどうしたんですか?」
「それが・・、行ったか行っていないかも覚えていないの。」
一説によれば、それくらい入り込むと、脳波が瞑想している時と同じ状態になっているという。
逆にいえば、その経験が瞑想に入りやすい状態を作るらしい。
非常に気持ちの良い状態で、無心で絵を描く時間。
サリー・ホーキンス演じるモード・ルイスの、あの表情。
とても素敵だったな。
心の中に存在しない物は、絵でも、楽器の表現にしても、文章にしても、出すことはできない。
現実世界の物質的なことではなく、「心の豊かさ」が源なのだ。
カナダの冬の海。
自然。鳥たち。花。
モード・ルイスの世界の全て。
学生の時に、先生が言っていた。
「暖かい地方で育った人は、暖色の使い方が上手です。逆に、寒色の使い方は苦手かもしれない。雪国で育った人は、逆に寒色の使い方が上手だけれど、暖色の使い方が難しいと聞くね。」
育つ過程で、一年を通じて見てきた景色や感じる空気感。
心の景色に影響があるのだな、と興味深く聞いていた。
確かに、ヨーロッパの街並みの色は、その地の風によく合っている気がする。
日本人の使わない組み合わせをしたり。
狭い日本の中でも、太平洋を見て育ったのか、日本海を見て育ったのか、緑の大地か、白い雪の世界なのか。
色の組み合わせをあえて勉強したりするのは、知らない景色を知ることだ。
湧き上がる心の内をあらわす手段として芸術があるなら、
感じるものを、そのまま天から降ろせた時が最高だ。
良いものを作ろうとすると、邪念が入ってしまうから。
素直な心。
無心に描くこと。
『幸せの絵具 愛を描く人 モード・ルイス』
は、好きな映画になった。
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