【読了】安壇美緒「ラブカは静かに弓を持つ」
安壇美緒「ラブカは静かに弓を持つ」
「ダ・ヴィンチ」でみて気になっていた本。
全日本音楽著作権連盟は音楽教室からの著作権使用料徴収を決めた。楽器演奏経験をかわれた主人公は社命で大手音楽教室の旗艦店に通い始める。
タイトルの良さだけを覚えていたので、表紙をみてチェロだ!良いな〜弾きたい!と思ってしまった。
あとなぜか弓を「待つ」だと思っていたのも同時に解決…なるほどな〜。
読み始めてすぐ、そういえば現実にそんな話があったなと思い出しました。
生憎きちんと追わなかったので結局どうなったのかはわからないけど、当時のそんなご無体な…という思いだけが残っています。
来る裁判に備え、著作権のある楽曲の不正使用の証拠集めのために仕方なく教室に通い始めた主人公ですが、音楽というのは意識の外側から染み込んでいくものですよね…。
デモンストレーションの速弾きとは違う、講師が彼のためにだけ弾いた一曲は、それまでの世界を綺麗さっぱり洗い流してしまうものでした。
2年という期間は変わらずにいるには長すぎる。
音楽への、チェロへの思いを取り戻してしまった主人公の抱える相反する気持ちに、知らず息を止めて見守ってしまう。
暗く冷たく、けれど深くて温かで。
願いというにはとりとめのない音楽は、やはり祈りなのではないかと思う。
自分自身と真剣に向き合う時間を過ごした者だけが持ち得るよすがのようなもの。
音が体にしみていくように、余韻の深い作品でした。
(20240407投稿文の再掲)
・第25回 大藪春彦賞