雨のヴェネチア
ヴェネチアに雨がふる。
水の上の街がかすむ。
空の青さも、海の青さも、雨粒に滲んで曖昧だ。海はゆれて、波のかけらが船の窓に打ち付けられる。
ガラス越しの、水の世界。
雨に沈むサン・ミケーレ島。
ここは、島全体が共同墓地。
アルノルト・ベックリンが描いた、『死の島』という絵がある。ヴェネチアの海に浮かぶサン・ミケーレ島も、この絵に通じる美しい静寂と孤独をまとっていた。
(ちなみにこの『死の島』は、スタジオジブリ作品の『風立ちぬ』の作中で飾られていたり、『君たちはどう生きるか』の舞台のモチーフとなっていたりする。人間という限りある生命の死と生、あるいは生と死を強く意識させる絵画である。)
海と街をつなぐ、水門。
反復する窓、つづいてゆく壁。
天へと伸びる、鐘塔。
遠くの景色は、やがて大気に溶け消え、蜃気楼のように。
雨がふるヴェネチア。
かすんだ水の上の街。
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