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【童話】こぐまとおしるこ【#シロクマ文芸部】

ハチミツはかくし味にしてみよう。
こぐまのルディくんはハチミツを棚に戻さず、そうしてみることにしました。
お外はいいお天気。ぽかぽかのお昼時。
ルディくんは、こんななんでもない日に、おしるこをつくって食べたかったのです。
その日ルディくんがスーパーで買ってきたおしるこは、こしあんを使った「ごぜんしるこ」というものでした。
お鍋に火をかけます。

ぐつぐつ。
こんなにいいお天気だから、この世界ではどれくらいのおしるこがつくられているんだろう。
きっとたくさんあるはずだ。
ルディくんは、お鍋のお湯が沸騰したので、おしるこの袋をその中に入れて温めます。

2、3分温めている間に、トースターでおもちを焼きます。
待っている時間も楽しい。
ルディくんはルンルンでした。

トースターのチンという音と同時に、おしるこの袋をお鍋から取り出します。
ルディくんは、お気に入りの赤い器におしるこを流し入れ、おもちも入れます。

さあ、食べよう。
ああ、待った。待った。
ルディくんはかくし味のことをすっかり忘れていました。
テーブルの隅にあったハチミツの壺を取り、器にかたむけようとしたその時でした。

かくし味ってなんだろう。

ルディくんはしばらく顎に手をあて考えてから「まあいいか」といって思いっきりかたむけようとして、「ちょっとまって」と言ってそれをやめました。

うーん。とも、あー。とも言ってみましたが、どうしたらいいか全く分かりません。
コンコン。コンコン。
なんだかさっきから音がします。
窓の方からするようです。
ルディくんはなんだろう、こんなだいじな時に、と思いながら窓の方を見ます。
そこでは、どこから来たのかハチドリが、くちばしで外から窓をつついていたのです。

ルディくんは窓に向かいました。ハチドリはひっきりなしにつついています。
ルディくんはしかたなく窓を開けました。それと同時にハチドリは、キッチンの中に入ってきてしまいました。
ハチドリはキッチンを飛び回り、リビングの方まで行ってしまい、部屋中をめぐりめぐっています。
ルディくんはそれをおいかけて手を伸ばしますが、全く歯がたちません。
つかまえたい、つかまえたい、あぁ!!
ルディくんは何かに足をとられ、転んでしまいました。

気がついたらそこは、花畑でした。
どうしてこんなところにいるんだろう。
右を見ても、左を見ても、どこを見回しても、一面花畑が続いています。
ゆめみごこちで目をこすりながら、ルディくんは立ちあがります。
そしてルディくんは、自分が何かを握っていることに気がつきました。
そっと手をひらくと、小さな懐中時計があります。
時刻は8時を指していました。
あれ、今はお昼のはず…。
ルディくんはふしぎに思います。
ふと青い空を見上げ、まぶしい太陽のひかりに目を細めます。
ルディくんは、時計の12時の位置を太陽の方角に合わせ、8時の方向に向かって歩きはじめました。
なぜかそうしたほうがいいと、ルディくんには分かったのでした。

ずっとずっと歩いていくと、花たちの上をなにか黒い点が飛び回っているのが見えます。
よく見ると、それは小さな蜂たちでした。
蜂たちはお尻をフリフリゆらして、8の字を描きながら飛んでいるのでした。
これはぼくは知っているぞ。8の字ダンスだ。
ルディくんはそう思って蜂たちの声が聞こえるよう、耳をそば立てました。
こっちに蜜があるよ。こっちに蜜があるよ。

「特別なハチミツがあるから。これならうんとたらしてだいじょうぶだから」
ほんとうかなあ…。
そんなことを思いながらもルディくんは蜂たちの8の字ダンスが示す方へ向かいます。

しばらく歩いて、そこでルディくんは不思議なものを見つけます。
いろとりどりの花の中でもひときわ目立つ、金色の大きなお花がそこにあったのでした。
たくさんの蜂たちがその周りを飛んでいます。
「摘んでだいじょうぶだよ。摘んでだいじょうぶだよ」
ルディくんはそっと、その金色のお花を摘みます。


周りの花畑はなくなり、ルディくんはいつのまにかキッチンに戻っていました。
手には金色ではなく、薄ピンクのお花を握っていました。
ルディくんは壺の中のハチミツに、そのお花をぽんと入れます。
両手を壺に置き、目を閉じます。

小さな蜂たちが、いっしょうけんめい運んだ蜜たち。
そうして生まれたたいせつな、たいせつなハチミツ。

ルディくんは目を開けます。
そしておしるこに、ハチミツをうんとたらしました。
もちろん、8の字を描きながら。
こぐまとおしるこ、はじめての出会いじゃないみたい。
ヴィンテージカラー。長い間、ずっと愛されてきたいろ。
ハチミツをたらしたおしるこ、おいしいね。
これもアリなんだね。

そんな小さな発見をして、ルディくんはリビングへ向かいます。
ぽかぽかのソファでねころぶために。
またあの花畑で飛び回る、蜂たちの夢がみたい。そんなおひるね、するために。




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