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兵庫県知事選挙結果雑感

最後まで予想は難しかったですが,斎藤さんが勝ちましたね.3年前に金沢和夫ではなく,斎藤元彦に投票した身としては正直嬉しかったです.

もっとも私も彼の県政や告発文書対応についてすべてが問題なかったとは思ってはいません.マスコミの偏向報道を差し引いたとしても,処分のプロセスは県の最高権力者としての振る舞いとしてやはり問題があり,彼が自らの行動が及ぼす影響への想像力をもっと働かせたうえで,特定の取り巻きに依存せず,県政を改善していってくれることを期待したいと思います.彼自身が言うように,反対意見やホイッスルブロワーに対して謙虚に対応する必要があると思います.

ただ,今回の演説動画を見ていて思ったことは,彼は思った以上に生活者だなということです.自らも不妊治療をしていたことや,県立高校や特別支援学校のトイレの問題など細かなことに気を配っていました.これは県民,特に20代から40代ぐらいの子育て世代に刺さるだろうなと思いました.若いということもありますが,政策として実行している政治家はいるものの,街頭演説でこういうことを話の中心に添える政治家はなかなか兵庫県にはいなかったので,新しい時代が来たものだと感じます.

さてマスコミ各社では事後の選挙分析が盛んですが,なんかいまいちしっくりこないんですよね.SNSの活用,立花勝手連の活躍,22人組の机バンバン逆効果記者会見など個々の要素はそうだと思うんですが,3年前の選挙からつながる県民の思いを反映している記事はなかなかありません.

そもそも3年前の知事選は市民感情を無視して暴言を連発していた井戸知事への反感からスタートしています.「センチュリーに乗ってみてくださいよ」発言は日々の生活に精一杯であった多くの県民を逆なでしました.その中で,兵庫県において知事が20年間も変わらなかったことと,総務官僚の禅譲が続いてきたことに問題があると感じ,多くの県民が井戸の後継者であった金沢和夫ではなく,総務省官僚とはいえ若手で,かつ自民一部や維新といった穏健保守政党の支援を受けた彼を選択したのです.その時の県民は「なんとかこの腐った兵庫県を少しでも変えたい」という思いが強かったのではないでしょうか.

就任後の斎藤知事の私の印象は「改革者として登場した割にあまり波風立てずに大人しいな」という印象でした.橋下みたいな劇場型政治はあまり行わず,粛々と行財政改革を進めているなぁと思っていました.県庁建て替えの白紙撤回は大きな賭けだと思いましたが,報道もそれほど過熱はしておらず,そこまで議会や既得権益者を敵に回しているとは想像できませんでした.それよりも彼は眼の前のコロナ関連対応で精一杯だったような印象しかありません.この頃から私も外郭団体に携わるようになりましたが,「無駄遣いはこれからはだめだよね」という意識が末端職員間で自然と芽生えるようになっていて,団体幹部の組織防衛的な小手先の施策には疑問を感じることも多かったですが,いい意味で改革者の存在自体が少しずつ県政を変えていっているなと感じていました.

流れが変わったのは県民局長の告発文書ぐらいからでしょうか.外郭団体に携わるものとして知事の記者会見資料は毎週チェックはしていたのですが,当初は「記者会見で幹部処分の発表をしているなぁ」ぐらいでそれほど気にもとめていなかったのですが,大学など公的機関の不祥事の処分案件を見ていた経験としては「処分が早すぎない?大丈夫かな?」という感覚はありました.飲酒運転とかそういう明らかにアウトな案件以外は,だいたい半年から1年後ぐらいに処分が下ることが多かったですからね.

5月頃に問題が大きくなってから,真っ先に感じたことは,(1)知事のパワハラへの怒り(2)文書の外部告発としての違和感でした.パワハラも改革に反対する職員を怒るのであれば多少は仕方がないのですが,職員が何分もずっと待ってエレベータのボタンを押すことは無駄以外の何物でもありません.おねだりは自治体首長としてはPRの役目があるので多少あってもいいだろうと思いましたが,無駄をカットする事業をしている人が,忖度だとしても職員の時間を浪費することに目をつぶっていることは,改革には逆行すると思いました.やはり改革を行う人には清楚さが求められます.その点で彼にはもう改革を行う資格や実行力がないのではないかと失望しました.

一方で,告発を行った県民局長が「プライベート情報」をPCに残していることに違和感を感じました.おそらくプライベートとは不倫や愛人絡みなのだろうなと想像はしていましたが,正義の告発をする人ならば,報復を恐れてそんな危険なものは,少なくとも公用PCの中に残すはずがないからです.しかも末端職員ではなく懲戒処分にも精通した幹部が,明らかに職務専念義務違反を取られそうなデータを文書送付後もPCに残しているのか不思議で仕方ありませんでした.「そもそも文書は正式な告発ではなく,退職前に怪文書としてばらまいてスッキリするつもりだけだったのではないか」私自身が内部告発的なことに携わった経験からはそう思いました.立花孝志も自身の経験からそう思ったことでしょう.どうも裏でこの文書を告発文書に仕立て上げ,政争に利用しようとしている動きがあるのかなとは思っていました.ただ,この時点では,不倫がまさか複数県職員が相手とは思っておらず,一般人の愛人であれば特別職ではないからプライベート扱いもありなのかなと思っていました.

転機が訪れたのは,立花孝志が「プライベートとは複数県職員との不倫である」と暴露した頃からでしょうか.多くの県民は県民局長に不倫をしたことに怒っているわけではないのです.まあ数人に一人は不倫を経験しているというデータもありますし,芸能界や政治家の不倫ニュースはしょっちゅうですから.何よりも問題だったのは,「強力な人事権を持った幹部が複数の県職員や部下と不倫する」背景から推察される県庁内の不適切な権力構造や,その内容を知りながらこの件を(純愛不倫と同様の)「単なるプライベート」で片付けようとしたマスコミや百条委員会メンバーへの怒りでしょう.ここには単に県民局長一人への怒りだけでなく,未だに県庁にはびこる守旧的な権力構造への怒りが含まれています.つまり不倫隠し事件を通して「県は斎藤知事の3年間でも少ししか変わっておらず,まだまだ改革は不十分だ,もう少し改革を続けてもらわなければ兵庫県は腐ったままだ」と多くの県民が思ったのではないでしょうか.

この大きな怒りに県議会議員やオールドマスコミが気付けなかった,あるいはそれを無視したことが,立花孝志のムーブメントが成功した背景にあることは間違いありません.これを指摘する記事が極めて少ないことに私は違和感を覚えます.やはり兵庫県に普段から注目していないと,今までの経緯がわからない分,表面的な論評に終止してしまうのかもしれません.

未だに大手マスコミは不倫の件について「プライベート」で通そうとしているようですが,「プライベート」ではなくその背後にあると推察される「腐った権力構造」に怒りの原点があることを直視していない証拠だと思います.それをきちんと解説してあげないと遠い地域の人に兵庫県のことは理解できないでしょう.

特別職ではない公務員の不倫をどこまで報道するかは議論があるところですが,職場内での性行為などは末端職員であっても普通に新聞記事になっていますし,それが単なる個人の純愛の範囲を超えて,公務員の風紀や権力関係を乱すような事例(それを疑わせる事例も含む)であれば報道すべきだと思います.それが権力の監視役としてのマスコミの義務でしょう.今回の県民局長は人事データの不適切操作や職務時間内の不倫日記作成でも処分されており,権力関係を乱したという決定的証拠は市民には開示されていないものの,複数人となれば限りなく黒に近い灰色です.なのに内容に触れないのは,彼のデータにもっとやばいもの(議員や記者の不倫案件等)が含まれているからなのだろうと勘ぐってしまいます.誤解の連鎖を防ぐためにも,いい加減に大手メディアは「プライベート」から脱却する必要があると思います.

最後に都議会戦などでも物議を醸したN国の立花孝志ですが,今回彼は純粋に外部告発経験者として兵庫県の現状に憂い,大変よい仕事をしてくれました.これも2019年にN国が参議院議席を獲得して国政政党となったことが情報収集や意見交換の面で大きな助けになっています.このときの選挙ではコロナ禍前ということもあり,断っても無理矢理家に入ってくるNHK委託会社のやり方に怒りと不安を感じて一定割合の人がN国に投票しました.私も投票所周辺でN国やNHK集金人の話をしていた高齢男性たちを見かけました.このバタフライエフェクトとも言える不思議なつながりは偶然としかいいようがありませんが,N国へのシンパや参加離脱をきっかけに国民主権党やつばさの党といった,新しい政治ムーブメントが起きていることをオールドメディアもしっかり解説したほうがいいと思います.チャンネルくららやCGSといった2010年代に活発化したYoutubeを拠点とする保守系メディアやその出演者が参政党拡大に大きく関わったり,N国関係者と交叉している実情も知る人しか知りません.知っている人にとっては,自民党の利権政治以上によく理解できる構造なのです.

今回の知事選はネットメディアとオールドメディアの戦いとも言われていますが,怪しい団体や真偽不明の情報も怪しいものと断りながらもちゃんと取り上げなければ,なんでこのような現象が起きたのか理解できる人と理解できない人の間で大きな分断が生じてしまうだろうと思います.オールドメディアは報道のあり方に根本的な変革を迫られている時期に差し掛かっています.

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