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兵庫県議会への処方箋

兵庫県知事戦シリーズはこれで最後にしようかと思っているのですが,今回の知事選の結果だけではなくプロセスも見てきて,県民の「県議会」に対する不信感の強さを非常に感じたので,信頼できる県議会にするためにどういった事が必要かということを提案してみたいと思います.

1.関連団体を含めて議員の口利き行為はすべて記録・公開する

日本の地方議会は国会とは異なり二元代表制です.すなわち知事も議員も直接民主制で選ばれているということ.一方でその役割は大きく異なります.知事は行政の長として政策立案から予算の取りまとめ,県が行う許認可まで実務を幅広く全般的に行い,その権限は強大です.一方で議会は人事や予算といった行政側の提案に対してその是非を議論し,修正を要求するということが主な仕事です.条例というのもありますが,あまり主体的な仕事ではない.

この仕事の量や持っている権力にかなりアンバランスがあるために,議会は行政への口出しを行うことが,支持者に対してアピールすることができる主な仕事となってしまっています.ポストに投函されている地方議員便りなどを見ると,「行政にどこどこ道路の老朽化の問題を指摘し,その結果改修工事が行われました」というような記載がよく見られます.

もちろんその口出しが公共性が高く,党派を超えて多くの人が共感できる内容ならそれは仕事として立派なものです.しかし,現実には特定部署や外郭団体に対して私的要求とも言えるような「口利き」を行い,支持者への利益誘導を行っているケースが多々あります.議会は予算の承認権があるため,「口利きを断ると議会内で工作が行われ,当該部署が中心となっている予算や外郭団体の予算が削られてしまうのではないか」という不安から,行政もその要求が公共目的ではなく不適切と知りつつも,議員からの口出しに従わざるを得ないというような力関係が生じることがよくあります.

知事や議会与党が適度に入れ替わり,しばらくすると不適切な口利きが全て白日にさらされる関係であれば,後で問題になることを恐れて議員にも自制が働くのですが,知事や県政与党が何十年も入れ替わらないような環境ではその習慣が常態化し,行政の前例踏襲も相まって,誰も口利きに逆らえないような関係ができてしまいます.まさしく兵庫県がそのような自治体です.

私が関わっていた外郭団体でも短期間で似たようなことを何度か見聞きしました.議員本人への特別対応ならまだしも,単なる「議員の知り合い」に対して特別対応してほしいとか,本来適正な使用料を徴収すべきテナントに対して議員からの口利きで相場よりかなり低価格の使用料に据え置かれていたりといった事例がありました.いずれも現場や幹部には県の財産を私的に使ってよいのかという問題意識は強くあるものの,結局「予算を減らされたら困るから」,「別件を持ち出されてで議会で吊し上げられたら困るから」というような理由でそれに従っていたのが現状です.

最近では政令市などを中心に議員の口出しは全て記録して,問題があれば公開するという制度を取る自治体も増えてきているようですが,本庁については全員が公務員であり利益誘導に対して毅然とした対応が取りやすいものの,兵庫県のように非公務員型外郭団体が多い行政組織であれば外郭団体も含めて口利き行為を一元的に受付・管理し,依頼議員名以外の個人情報は黒塗りしたうえで原則全て公開する仕組みを作ったほうがいいのではないかと思います.公共のためのちゃんとした口利きであれば議員のお株が上がり,私的な口利きであれば糾弾されるという仕組みが必要です.

また,議員の不正行為に対して行政職員や事情を深く知る市民が容易に声を挙げられるようにする仕組みも必要で,鳥取県のように今回兵庫県でも改善が検討されている第三者組織を窓口とする公益通報制度に県議会議員関連事項も含めるのも一つの案かと思います

2.百条委員会は単なる政治ショー.メンバーを議員以外にも多様化させ,進め方についてはパブコメも活用することを義務付けるべき

もう一つの議会の問題点は,議会は知事の不正を百条委員会で糾弾することができますが,議会を外部から正す仕組みが選挙以外にないことです.もちろん自律的に議会内で不正を働いた議員に対して辞職勧告などを行うことはありますが,そもそも党派性のある議会に自浄機能が働くとは限りません.今回一部が公開されている百条委員会も結局のところは党派性が行動の基本原理となっており,議員自身が主要委員や委員長を占めることによって政治ショー化し,公平公正に調査が行われる環境では全くないということです.今回の選挙で斎藤氏に票を入れた人はその行動の根底に「百条委員会の調査およびその後の議会不信任決議に対する不信感」があるのは間違いなく,実質上,今回の選挙は知事を選ぶ選挙ではなく「議会の行いに対して不信任であるという民意が示すための選挙」だったと言っても過言ではないでしょう.

もちろんチェックアンドバランスの機能は必要であり,百条委員会自体の意義を否定するものではありませんが,過去の百条委員会はどれも政治ショー的な側面が目立ち,そうならないためにも議長は議員ではない人間が行うとか,意図的に情報を隠していると疑われないためにも秘密会のような特別な調査の進め方をする場合はパブコメを活用する,検察審査会のように無作為に選ばれた一般市民も関与できるようにするなど,委員会の進め方そのものに外部視点を入れる仕組みが必要と感じます.偽証罪で刑事訴追されたり,結果によっては知事や市長を失職させられるほどの力があるのですから,その進め方は党派性を超えて誰から見ても公平公正であるようにすべきです.

兵庫県については奥谷委員長は一旦百条委員会の機能を停止し,委員会の進め方について有識者の意見を聞いたうえで,委員や委員長の人選や秘密会の是非を検討する義務があると思います.彼にもこの委員会を政治目的で利用する潜在的動機はあると思いますから,これだけムーブメントが広がった以上,疑惑が疑惑を呼んで分断を進めるような状況を避けるために一旦立ち止まることが必要でしょう.知事選と百条委員会は別という論理は今回の知事選のプロセスを見る限り極めて不適切です.

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