ルコント・ド・リール「夜」(フランス詩を訳してみる 38)

Leconte de Lisle (1818-1894), Nox (1852)

山々の斜面の上で 穏やかな微風びふう
波打つ木々を眠りに誘っている。
鳥は 夜露の中でしずかに眠り
星は 青い波しぶきをきんに染めている。

谷間のふちで 手つかずの高地で
やわらかな霧が 道を消してゆく。
月が悲しげに黒い葉むらを浸している。
人のささやきはもう聞こえない。

しかし 遠くの砂の上では 聖なる海が歌い
高い森の中からは 大いなる呻き声が上がる。
そして よく響く大気が 夜に照らされた空へ
海たちの歌と 森たちのため息を 運んでゆく。

立ちのぼれ、霊妙なざわめきよ、人智を超えた言葉よ、
大地と空とのゆるやかな甘い語らいよ!
立ちのぼれ、そして澄んだ星々に尋ねておくれ、
天に至る永遠の道はあるのか否かと。

おお海よ、おお物思う森よ、世界の敬虔な声よ、
おまえたちは苦難の日々に僕に答えてくれた、
僕の不毛な悲しみを癒してくれた、
そして僕の心の中でいつまでも歌ってくれている!

安藤俊次の訳を参考にした。)

Sur la pente des monts les brises apaisées
Inclinent au sommeil les arbres onduleux ;
L’oiseau silencieux s’endort dans les rosées,
Et l’étoile a doré l’écume des flots bleus.

Au contour des ravins, sur les hauteurs sauvages,
Une molle vapeur efface les chemins ;
La lune tristement baigne les noirs feuillages ;
L’oreille n’entend plus les murmures humains.

Mais sur le sable au loin chante la Mer divine,
Et des hautes forêts gémit la grande voix,
Et l’air sonore, aux cieux que la nuit illumine,
Porte le chant des mers et le soupir des bois.

Montez, saintes rumeurs, paroles surhumaines,
Entretien lent et doux de la Terre et du Ciel,
Montez, et demandez aux étoiles sereines
S’il est pour les atteindre un chemin éternel.

Ô mers, ô bois songeurs, voix pieuses du monde,
Vous m’avez répondu durant mes jours mauvais ;
Vous avez apaisé ma tristesse inféconde,
Et dans mon cœur aussi vous chantez à jamais !

『古代詩集』(1852年)で、代表作「真昼」の直後にくる詩です。

「六月」「真昼」「夜」の3編で、「拾遺詩集」Poésies diverses という連作となっています。

 *

シャルル・ケクラン(Charles Koechlin, 1867-1950)による歌曲(1900年)[楽譜]があります。

ルイ・ヴィエルヌ(Louis Vierne, 1870-1937)による歌曲(1910年)[楽譜]もあります。

さらに今世紀に入って、池田悟(Satoru Ikeda, 1961-)が合唱曲(2012年)を作曲しています。


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ひよこのるる
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