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金木犀。


今年の3月末に引っ越しをして、
日々の暮らしをひとつひとつこなしているうちに、あっという間に10月が来た。

10月。
と言えば、わたしの中で1番に思いつくのは金木犀だ。

前まで住んでいた家の近所にはたくさんの金木犀が植えてあって、10月になるとそこらじゅうにいい香りが漂いだす。

わたしはその香りに誘われるように子どもと散歩に出かける。

「いい香りやねぇ」と話しながら、近所で1番大きな金木犀を眺めに行く。
小さな小さなオレンジの花が可愛くて愛おしくて秋だなぁと季節を想う。

落ちてしまった花を拾って持ち帰り、水をはった小さな器に浮かべるのは毎年の楽しみだ。


金木犀が満開になって散ってしまうまで、ほんの1.2週間ではないだろうか。
毎年、あっという間だ。でも短いこの一瞬の香りがわたしは大好きだ。


引っ越しをして、
10月が来て、
稲刈りも終わって、

なのにわたしはまだ 金木犀の香りを嗅いでいない。新しい家の近所には どうやら金木犀はないらしい。



子どもと散歩をしていても、
あの優しい香りに出会わない。


秋だからかなぁ。
と、センチメンタルを秋のせいにして、寂しい。と、思う


この土地に来るまで考えたこと、悩んだこと、来てからも未だに手放せないしこりのような想いを、わざわざ取り出したくなる。

金木犀がないなんて、と。

金木犀のせいにする。


このやりきれなさは、あの香りのように、一瞬で消えてしまうものだと知っている。


知っていて、それでも
わたしは自分の心が、少しだけ孤独になるのを許す。



追記

これを書いてすぐ、大きな金木犀を見つけ
けろっと元気になりました。

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