
「結婚、することにした」
渡月橋が見える嵐山の小さなカフェで、
その子は照れ臭そうに言った。
窓からじんわりとした陽が射す。
桜色の薄手のブラウスがよく似合っている。
帰省ついでに連絡をしたら、話したいことがあると言った君。
興奮した感じで「おめでとう」と立ち上がるのも違う気がしたし、
「幸せになってね」は、悔しさが滲み出そうな気がしたし、
それで、「春が来たね」と言った。
ちょっと、茶化すような感じになってしまった。
前に2人で嵐山に来た時は、お互い14歳で、地元の中学生で、
桜の形の髪飾りを買ってあげたんだった。
覚えてるかな?と聞いてみたかったけれど、やめる。
そんなの覚えてなんかなくていいから、
ちゃんと幸せになるんだよ。
おせっかいな親戚みたいに思う。
「おめでとう」
だけど、窓の外を見れば、夏服姿の僕らがまだその辺にいるみたいな気がして、困る。
ソフトクリームを握って駆け回っていたあの頃。
もう二度と戻れない、あの頃。
春が来た。