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「本当の人生」のせいで破裂寸前で、ハリーポッターの風船おばさん状態。

社会人1年目の私は、結構な激務の会社にいた。

業務量も多かったけれど、なかなか帰れない雰囲気があったり、そして深夜や朝方まで続く夜のお付き合いがとても多かった。

今考えればそんなん断って効率よく仕事をする方がいいに決まってるのだけれど、時代が微妙にまだ後進的で仕事よりプライベートを優先することに不寛容だったと思う。

と、何より私自身がそのような時間の使い方に違和感を持っていなかった。

仕事仕事仕事!
と邁進することが普通だったし、プライベートは仕事の次にあるものだったし、生活まるごとを会社の同じチームの人と生きている感覚が染み付いていた。

苦しいとも思わなかった。

だけど、なんか気分を変えたくなり、三年弱で、転職をした。

憧れの業界の、かつライフワークバランスの面で非常に優れた会社だった。

まず一番にびっくりしたのは、帰り道の景色だ。

空がある。

帰り道なんて、この数年来「黒」しかなかったのに、空があった。
黄色がかかった水色の空を見上げて帰路につくのは、朝帰りのときくらいだったのに…

あれ?こんな暮らしがあったのか。と本当に思った。

ルミネに立ち寄って服を買ったり、美容院に行ったり、友達と19時から飲むことが可能になったのだ。私は時計を見ては目をまんまるくし、そんな暮らしに心底わくわくした。

え、全然このほうがいいじゃん!!

そう思った。
今まで脇目も振らずに邁進できていたのは「新卒だし他を知らなかったから」なのだなと思った。20代前半の貴重な数年を危なくも捧げるところだったな、と、自分の選択に胸をなでおろした。

あープライベートバンザイ!!

で、いま。転職して約半年。

相変わらずプライベートバンザイではあるのだけれど、違和感が日々私を襲っている。

人生の満足度が別に増してはいない。

仕事に邁進していたエネルギーがプライベートのワクワクにまるっと移ったような感じで、満足の質は変わったけれど量的にはトータルでプラマイゼロだ。

どうしていいのかがわからなくなっている。

だって、企業の正社員である限り、プライベートより多くの時間を会社の仕事に使うことになる。

プライベートが存在するのは喜ばしいとして、会社での生活が、私にはまだよく分からない。

社会人になってまだ3年でそんなこと言うなって諸先輩方に怒られそうだけれど、会社勤めをしていると、世の中の人の熱さや勤勉さに目を見張る。

会社の業績が上がったら喜んだり、査定が上がったら喜んだり、なんだか彼らは生き生きしている。彼らの世界にはワクワクが結構転がっているみたいだ。

私は、同じ会社の社員であるはずの彼らを見ながら思う。
私の世界にだけ、ワクワクが全然転がってない…
私の世界に入ってくると、彼らのワクワクが本当に何でもなくなってしまう。

良かった、悪かったは分かるけど、嬉しいや悔しいが本当は全然ない。

本当はみんな最初はそうなのかな。
慣れてしまうのかな。

そうだとしたら私にも、彼らのようにワクワク働ける可能性があるから安心する。
だけど、慣れとか無理な自己肯定が彼らが楽しそうである理由じゃないといいなぁ。人の事だけど、それは不自然ではないか。

私は、私を雇ってくれる会社にはいつも感謝をしている。なのに同時に、私の大事な人生が奪われている感じがしてきてしまって、いつも恨んでしまう。

沢山の素敵な人に囲まれて、家庭のような温かみもある今の居場所は好きなのに、なんだか凄く焦る。

早く、早く「本当のこと」をやらないと。

なにこれ?なにこの感情。
転職してから、ビックリしっぱなしである。

冷静になれば、多分、前の会社のときは麻痺をしていた。目の前のことに常に必死だったし、「バリバリできる人」的な演技をしないとやってられなかったからそうしてた。
反対に今の会社では本当の自分がとてもよく分かる。自分について考えるために使える時間が、とてもとても多くなったから。

私は、心底満足できてないないのなら、それは私の人生じゃないと思った。

いやいや社会ってそういうものだから。
夢ばっか追いかけてたらきりがないから。

そう言い聞かせようとしても、私は自分の人生に頑固だ。

私の着地点はどこにあるんだろう。

本当にそんなものはあるのだろうか。あるとして、30歳とかそんな早いうちにたどり着けるものだろうか。凄く時間がかかるなら、そんなもん探さない方が結果良かったりするんじゃないか。

でも本当の私が、日を置くごとにどんどんおっきくなっている。

ハリーポッターとアズカバンの囚人の冒頭で、ハリーに魔法をかけられてムクムクと風船になってしまったあのおばさんの画が浮かぶ。

あんな感じでいい。

あんな感じでいいから、会社員という窮屈な服を破って、どっかに飛んでしまいたい。

私の中身が、妙なくらいにどこかに逃げたがっている。

ハル

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