晩夏・焼鳥屋にて ~愛のある場所~
家からほど近い焼鳥屋に来た。
ひとりで。わたしは美味しいものに目がない。
このお店は鳥飼を置いていらっしゃる。
わたしは焼鳥にいちばん合う飲み物は、米焼酎、それも鳥飼のロックだと思い込んでいるので美味しい米焼酎を置いていらっしゃるお店はそれだけで大好きだ。
つくねを食べる。
ふわっとほろほろと崩れていく身。
お皿に乗っているときはちゃんと丸く愛らしい形を保っているのに。
歯をあてた瞬間崩れていく。
なんてなまめかしい…
ねぎまを食べる。
もものしっかりとした弾力と、
甘過ぎず薄過ぎない程よい味のたれが絡み合う。
ねぎはぬるりとした水分をたたえた歯ざわりと、炭火がつくった焦げの香ばしさを鼻奥に届ける。
「 What I say …, how fantastic …!!」
喋れない英語さえ出てきてしまう。
少し冷静になろう。
周囲の雰囲気を感じてみる。
隣の席には、シングルファーザーの方だろうか。
小学生であろうハキハキとしたお嬢さんとカウンターに腰掛けておられる。
さっき入ってきた後ろのテーブルの小さな子連れのご夫婦は予約されていたようだ。
お店の人に「奥のテーブルじゃだめですか?」と聞いていらした。
店主であろう方が「小さなお子さんお2人いらっしゃるとのことでしたので、こちらのお席の方がほかのお客様を気にせずお食事できるかなと思いまして」と笑顔で対応されている。
ご夫婦も了承し「そういう気遣いがあったんだ」とおっしゃっておられた。
次に入ってきたのは、男性グループ。
「3人で、」とのこと。
わたしは美味しいものに目がないため、飲食店へひとりで行くことに抵抗がさっぱりない。皆無である。時にはひとりで食べるからこそ美味しさを噛み締められるとさえ思っている。特にこんな美味しいお店なら尚更。どこにこの熱情に抗える理由があるのか。
だから3人グループが入って来られたときに、
「え、3人で来る人もおるんや」
と、とんちんかんな問いが生まれた。
多少、鳥飼ロックのせいでとち狂っているのかもしれないけれど、むしろ数名でくるのが標準の場所なのである。
でも問いは生まれた。
こんな美味しいお店にも数人で来る人もいるんだ。
そして、その問いの答えがすぐに追いかけてきた。
美味しいものを共有したいと思う仲間だからなんだろう。
なにか話をするときに、仲を深めるために、
ともに「美味しい」という五感を潤わせる。
そのときの共犯にも似た「物語」が同席した仲間たちのあいだに育まれる。
「一緒に美味しいものを食べたい。」
「あの人にもこの美味しいものを食べさせてあげたい。」
そんな酔っ払いたちの脳裏に浮かぶ「愛」としか言いようのない純粋な想いを飲食店は受け止めているんだ。
それは愛が自然発生する場、とも言えるんじゃないだろうか。
にぎわってきた店内のすべてのテーブルに愛が浮かんでいる気がして、わたしの胸はいっぱいになってしまった。
新しいお客様がいらっしゃった。
わたしはここでカウンターを一席空けよう。
その方もお店の方もありがとうと言ってくださった。
「愛…」
つぶやきそうになる想いを抑えてご馳走様でしたとお店を出た。
夜風はもう、秋だった。
ルーシー・グリーン
占い師。主な占術は星占いとタロットカード。
インターネット界を中心にファッション誌など各種メディアでの運勢ページを担当。占いを通して自分自身を肯定し、豊かな人生を創る素晴らしさを伝える。ノリのよさと、ほとばしる愛の言葉で迷える子羊たちを絶賛導き中!!
https://www.lucygreen.jp/
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