5月ある日
いつもより多く寝たはずなのに、前日までの疲れが取り切れないまま起床。
昨日かけたパーマ頭を丁重にもてなし過ぎて眠りが浅かったのか。
起き出して、先週静岡で買って大切にとっておいたスルガ甘夏の中身がスカスカになっていてガッカリする。
6玉入っていたものから、2玉は会社の人に私、残りの4玉のうちの最後の一個だった。
これまでの3つはジューシーな断面で朝から心を躍らせていたのに。
ということはと思い、その時一緒に買ったニューサマーオレンジという、小夏のような柑橘に期待せず切ってみると思いの他みずみずしい断面でうっとりする。
初めて行った飲食店の味が微妙だった時に嘘だろ、という気持ちでもう一度行ってみる気持ちに似ているなと思う。希望を見出すことにチャンスを与えたい。
ご当地柑橘は複数買え、というのが人生訓に加わる。
今日はカゴのバイトの日。
市内では今日から二日間クラフトフェアが開かれ、これはなかなかに歴史ある工芸や民芸のお祭りで、街全体で同時多発的に民芸や工芸の催し物が開かれる。
滅多に見られない人口密度。全国から人がやってくるそうだ。
この街に越してきた最初の年に会場に出向き、強い日差しに当てられて、去年は期間中家から一歩も外に出なかった。
今年はまさかその祭りに携わることになった。
お祭りの端っこにいるのが好きだ。
今日も、メイン会場ではないにせよ、ハシゴのようにして今まで見たことのない店内の光景を何度も見渡した。
自然体で、ヘルシーという言葉が似合う人に憧れる。
どうしても自分は俗っぽい。着飾ることが好きだし、華やかなものに惹かれる。
欲望は尽きず、押し込めてもどうしたって滲み出てくる。いつまで外見に固執しながら歳を重ねていくんだろうと辟易とする。
昼食は店主が用意してくれたお弁当を食べる。
動物性の食材を使っていない、けれども食べ応えのあるとても美味しい食堂のお弁当に心満たされる。
おやつもいただき、就業時間中に美味いものを食べさせてくれる人へのありがたみを隠せない。
通常の10倍近い入店客数を記録し、年に一度だと言われる店内の光景を脳裏に焼き直す。
店を仕舞い、打ち上げのような場に合流する。
夜遅くまで賑わう市内は新鮮で、日中の暑さからは想像できない寒さの中ビールを煽った。
その横で同僚が自ら手がけた竹細工を販売していた。
文章を書きたいということを方々で言い、でも見せられるものはてんでなく、ジャッジされるのも嫌だが、その地点に立つこともできない自分に恥ずかしく思う。
遠回りをしてきて、それでもよしとしていたけれど、どこまで遠回りをしているんだろうか。
話題の主役に据えられた状態で、一緒に働いている人が帰るというので一緒に会場を後にした。居た堪れなかったのだ。
眩いような若さも、才能もなく、ずっと二の足を踏んでいる。
寒さにやられ、一人飲み直す気力も湧かず車に同情させてもらい帰宅し風呂に入る。
髪の毛から、パーマ液なのか、タンパク質が変異している匂いがする。
俗っぽさ、俗っぽさと脳内で唸るように洗い流す。
私は何者かになれるんだろうか。