見出し画像

ピアニスト(2001年)

ドイツのミヒャエル・ハネケ監督作。主演のイザ
ベル・ユペールとブノワ・マジメルと共にカンヌで三冠を達成しています。

タイトルに「ピアニスト」とつく映画は結構あり、「海の上のピアニスト」「戦場のピアニスト」等感動作品が多いです。
が、この何もつかない「ピアニスト」、かなりエグい映画なので、くれぐれも見間違えないように!

イザベル・ユペール、チャレンジングな女優さんです。近親相姦やレイプがテーマの映画にも出られています。
Wikipediaに独立して「イザベル・ユペールの受賞とノミネートの一覧」というページが設けられるほど、世界中で評価されている女優さんでもあります。

ブノワ・マジメル、実生活でもジュリエット・ビノシュとの間に子供を作ったように、ナチュラルに年上キラーを演じています。

私はハネケはこれしか見たことないのですが、後味悪いので有名みたいですね…。
公開当時見た時には、トイレのキスシーンをロマンチックなものとして記憶していたのですが…。

ワルターはエリカのことを愛しているのか、ただセックスしたいだけなのか…どちらにせよ恋愛に慣れているのは確かです。「愛している」と臆面もなく口にして、隙あらばキスしようとしてきます。

対するエリカは、過干渉というか毒親の母親と2人暮らし。当時はそういう言葉なかったけど。
ピアノに全てを捧げ、オシャレも恋愛も禁止された生活を母親に強制されています。
でもピアニストにはなれず、なのに未だに他の人に勝つことを強いられています。
抑圧された生活のせいもあるのか、かなり特殊な性嗜好の持ち主です。

エリカがポルノショップに行って、回りの男性陣にギョッとされるシーンがありました。
私は、そういうお店に行けるだけ、例えば日本人の女性に比べて、エリカは解放されてるのだと思って見ていました。そこで発散できるだけマシなのかなと。
と、どなたかが、エリカは母親に対して、その夫の役目、男の役を演じている、と書かれていました。なるほど…。
外で働いてお金を稼いでくる、家にいる家族を養う、その家族に小言を言われるというような流れの中に、ポルノショップに行く、妻とベッドを並べて寝る、妻で性欲を発散しようとする、というのも含まれているという考え方は面白いですね。
一切のコミニュケーションや擦り合わせを無視して、自分の欲求を手紙でワルターに押し付けるエリカ。その一方的さも、旧来の男性的やり方と言えるかもしれません。

そして、当然と言えば当然ですが、頭の中で考えていただけの理想は、現実に体験してみると、全く自分の求めていたものではなかった…。
ある意味恋に恋する乙女だったと言うか…。

最後のほうでワルターがエリカの希望を叶えるのは、やりたくなかったけどしかたなくやった、ではなく、もう気持ちが残ってないからこその行為なのかもしれません。
もう大事な相手ではないからこそ、歪んだ希望を叶えてやる気になり、叶えてやれば犯しても文句はないよね、という感じ?
その突き放した感情が、ワルターの「オレは男だけど、オマエは女だから〜」という発言に繋がるのかもしれません。
と言うか、結局こういう捨て台詞を吐くということは、ワルターがエリカに抱いていた気持ちは、最初から愛ではなくただの情欲だったってこと?
反対にエリカがワルターに抱いていたのは、情欲ではなく愛だったのかも…。

私は、恋愛において一番強いのは「珍しい」だと思っています。オノ・ヨーコとジョン・レノンみたいな。
遊び慣れたワルターにとって、高齢処女の芸術家は「珍しい」だったのではないかと。だから欲しくなったけど、フタを開けてみたら、あまりに特異で、自分が楽しめるタイプではなかった。
マナーある遊び人は、口説く時に相手に必ず好きだって言いますからね。体だけが目当てだって言いながら口説く人は、最初から言い訳してるだけです。

性嗜好は極端ですが、ワルターに対するエリカの反応自体は、恋愛初心者あるあるでもあります。
告られて最初は、どう反応していいか分からないから無視→自分に自信がないから信じない→強引に迫られるととりあえず落ちる→もったいぶる→急に化粧したりオシャレするようになる→自分の理想を押し付ける→逃げられると急に執着して追いかけ始める→相手に足元見られてひどい扱いされる→自分は傷ついたのに、相手が無傷なのを見て更に傷つく→そして自滅…。
エリカほど極端ではないにしろ、誰でも通る道ではあります。
そんな拗らせ女子を、イザベル・ユペールは体当たりで演じています。
エリカは、彼の視線の先にいる別の女を卑劣な手段で蹴落としたとしても、自分がその代わりになれるわけではないことも分からないのです…。
そもそも恋愛は2人でするもの…。
どこまでが愛でどこからが情欲なのか…お互い絡み合って不可分な状態なのが、よりヨーロッパ的な感じがします。
ポスターや公開当時のコピー「ぼくはあなたがどんなに哀しい秘密を持っていても愛しています」は、純愛とかロマンチックな映画だとミスリードさせる気満々ですね…。

いいなと思ったら応援しよう!