一夏の恋
彼の話には、一つたりとも私と交差する未来がなかった。
ドライブにしても、旅行にしても、12月上映予定の映画にしても。
次会う約束はしても、それから先の約束はなかった。
花火デートで手を握り、優しくリードしてくれた。
動物園では看板に説明書きがされている動物を見つけては、繋いだ手を優しく引いて私に見せてくれた。
目を見て話を聞いてくれて、よく笑ってくれた。
優しい雰囲気に油断してしまった。
あれは、私だけに見せてくれた顔ではなかったということ。
きっと別の女の子がいて、私とその子で天秤にかけていたのだ。
または地元の子と結婚して、現在は単身赴任中なのだ。奥さんがついてこなかったのは、新築の家を建てていたから。
つまり私はサブストーリーのモブにしか過ぎない。
当て馬キャラの周りに群がる女の子Cに過ぎなかったのだ。
その少女には顔も名前もない。サイドストーリーなんてもってのほか。
誰も知らない、誰も興味がない。
そう、今思うと辻褄ならいくらでも合う。
LINEは1日に1件。
返信があるのは決まって19時か23時。
ご飯は割り勘。
きっちりお金は毎度受け取る。
たくさん伏線ならあったのだ。
見て見ぬ振りしてミスリードをしたのだ。
朝4時まで私はいろいろなことを考え眠れなかった。
そして誰にでも平等に朝は来るもので、1日は始まる。
本日はもともと約束していた、父との大阪城観光。
とってもよかった。
波乱の人生の豊臣秀吉に比べれば、私の悩みなんてちっぽけだ。
最後にお土産ブースで戦国おみくじ(210円)を見つけた。
説明書きには「この御籤に書かれた武将は現在(いま)のお主を映しておる。」とのこと。
真田幸村なんて出たら、たかがみくじでも幸先がいい。
私は、なんの迷いもなくおみくじ筒を振り、210円握りしめて鮨詰め状態の外国人観光客の間を縫い、ニュッと手を出し受付のお姉さんに出た数字を告げた。
出たのは
小早川隆景(たかかげ) だった。
誰だよ。
父に見せると、
裏切りもんやな!と笑いながら大きい声で言われた。(ズーン)
(その後調べると、父がいう裏切り者は隆景の養子の秀秋だった。どっちにしても養子は豊臣秀吉を裏切っているので、変わらずズーンとしてしまった。)
ちなみに、恋愛運は★★★★☆で話し合いが問題解決の鍵になるそうだ。
(もう遅い)
さらにちなみにだが、仕事運は★★★★★だった。
無職なのでなんの慰めにもならなかった。