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薬草好きの話 ヨモギとお灸と伊吹山

かくとだに えやは伊吹のさしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
百人一首51番、藤原実方頼臣の歌です。

こんなふうにね
君に恋をしているんだけどさ
言えるかって
いや言えないよ
伊吹山のさしも草(ヨモギ)じゃないけれどね
(良く燃える草だよね)
僕の想いも燃えているんだ
この想いを君は知らないよね

伊吹山

伊吹山は滋賀県と岐阜県にまたがる山です。滋賀県側から見た伊吹山の形は雄大で、雪山となればもっと凄みを増す美しい山です。ですが、岐阜県側からは山並に紛れたなんてことない山に見えます。気候もこの伊吹山の向こうとこっちで全く違っていて、雪も雨も岐阜県関ケ原を境に一変します。戦国時代の戦、天下分け目の関ヶ原その名のごとく気候変換地点です。

そこでこの歌は伊吹山しかないでしょと言う認識のもと育ってきたわけです。お灸と言えばセンネン灸なのです。
(※今回の記事に登場するのは長生灸です)
昔見た滋賀県舞台のサスペンスでもこの歌を作中に引用していました。
この歌の舞台は滋賀県の伊吹山じゃない説有力と出会ってしまったのです。
栃木県説有力と言う書物を読みました。たぶん山の存在感としては伊吹山が絶対勝つと思っています。(栃木県さん、ごめんなさい。こんなに張り合う私をお許しください。)
なぜ読んだかと言うと今回あるイベントに、スタッフとして参加することになったためでした。
講師の先生の話を聞くだけに留めて於けばよかったのです。スタッフたるものちょっとプラスα知ってたほうが良くないかみたいな自己満足のため読んだ本に書かれていまして、卓袱台(無いけど)ひっくり返したいくらいのショック、星一徹(古いけど)になってました。
栃木県の民に聞きたいです。我が県の歌だと思ってはりました?

草餅、草団子、草とはヨモギのことで、世間一般の認識はヨモギは草です。雑草と言いたいくらい蔓延ります。だから除草剤が撒かれているかもしれないし、春の野に出でてヨモギを摘んで見たいけど場所を選ばないといけません。いつからか庭に根付いた無農薬ヨモギを大事にしていたら芝生の上を駆け巡るようになってしまいました。ため息混じりで薬草か除草かの葛藤がまた始まる季節がやってきています。

汽車が通れば蓬つむ手をいっせいにあげ (山頭火)

現代はこんな風景にお目にかかることは無いです。ヨモギか足りません。灸業界のお話です。

ヨモギ栽培の人手がないのです。だから雑草の仲間かもしれない蔓延るヨモギも物価高のご多分に漏れず年々値を上げているそうです。
ならば休耕田でヨモギを栽培し売り込もうか!(一瞬よぎった我が脳内)と言うのは浅はかな考えらしく、された方がいらっしゃいました。刈り取った後に干す作業、葉だけをしごき取る作業を経て、軽くなった量の買取料金が手間に比べていかほどのものか、何枚かの葉っぱを乾燥させて粉状にしたら小さじ1杯にしかならないことを知っている身としては、冷静に考えたら想像に難くないことでした。

足りない分は、中国産を輸入したり、日本固有種を持ち込んで海外で栽培農場を持ち輸入されているそうです。なんでもそうかもしれませんが、日本産の品質が良いのは原材料から取り扱いが丁寧なのではないでしょうか。雑に刈り取れば雑草が混じります。雑草が混じったヨモギは香りも変わるし、燃えるもぐさが蓄える温度も微妙に高いかもしれません。まあ、市販されるお灸の品質を考えれば余程の通の方にしか分からないとは思いますが。
私などは効能が入りきるまで待てない、熱さに負ける根性無しです。不適切な例を出しますが、根性焼きってここからきてるんでしょうか。


ヨモギの生産は国内では新潟県が最多です。
灸師の試験問題によく出るらしく、四択問題に新潟県と滋賀県が入っていたりするそうです。かくとだにの歌の伊吹山は滋賀県だよねと思っている人はかなりな確率で不正解を書くなと思ったのでした。

成長したヨモギを乾燥させた状態
製品 もぐさ(上)台座灸(下)
(株式会社山正※長生灸)

もぐさはヨモギの裏毛を材料として作られます。ではなぜ他の植物の裏毛ではだめなのでしょう。
ヨモギはよく燃えるらしいです。植物に関しては自分が実体験しないと気がすまないタイプなので、伝調を使います。実際やったら無許可野焼きで通報されそうです。
燃える割に燃焼温度が低い。
やいとと言われるお灸をすえるにはその温度が最適なのですね。熱すぎてはほんとに火傷です。いつも思うのですが初めてチャレンジした人は凄いと。

次にもぐさに残る有効成分の存在です。シネオールという成分を多く含んでいます。シネオールの効能は血行促進作用があげられます。この成分を含有する西洋薬草ハーブの代表格にローズマリーがあり、手で触れただけでかなりな香りが手に移るので臭いと言う人もいるでしょう。
そう考えるとヨモギの香りは穏やかです。冷え性や腰痛、筋肉痛、血行がよくなることで様々な効能が期待されるシネオール成分なのです。お灸はそこに温熱効果が加わります。

ヨモギ(蔓延る我庭)
本州以西自生
成長丈50~100cm
オオヨモギ(北海道十勝で撮影)
近畿以北に自生
北海道はオオヨモギしか無いらしい
成長丈は200cm

幼稚園やそこらの年頃に、祖母からお灸をすえるアシスタントを仰せつかっていたような記憶があります。もぐさを高く盛って腰に置く。頑丈な線香みたいなもので火を着ける。私は何を手伝ったのか思い出せないのですが、まさかもぐさへの着火?いやいやそれはなんでも孫を信じ過ぎです。ただ私の記憶が勝手に作られているのです。もぐさを盛っているし、線香を触っている自分が見えます。いや、さすがに無いでしょうね。

よもぎイベント&薬膳弁当

3月も後半だと言うのに朝方には雪が薄っすら積もるようなとても寒い1日でした。「長生灸の(株)山正」様を訪問、もぐさができる工程の工場見学をさせていただきました。一般の方の工場見学というよりも、鍼灸師を目指していらっしゃる学生の方の工場見学がほとんどと言われます。マニアックな工場見学です。壁や柱には浮遊したもぐさが積もっていて、気を付けるようにと注意を受けていたにもかかわらず、ほぼ皆、裾や背中を汚している状態に嘆くことなく笑っていたという、やはり参加者がマニアックすぎる団体ではありました。
昔の稲穂の脱穀から精米までを薄っすら覚えています。工場内の風景がちょっと似ていて、そんな昔を思い出し懐かしさを感じていました。
そして、「蕎麦と薬膳 素々」さんの薬膳弁当が大好評だったことを添えておきます。

読み方豆知識です。
伊吹山ですが、滋賀県民であっても、伊吹山に近くなるほど「いぶきやま」と呼びますが、離れるほどに「いぶきさん」と呼びます。
ちなみに私は「いぶきさん」で育ちました。富士山は「ふじさん」だから、伊吹山だって「いぶきさん」だよねと信じて疑いませんでした。
高い山は「さん」で、低い山は「やま」な気がします。若しくは遠い位置にある山は「さん」で、地元に根付いた山は「やま」な気がします。


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