電車内でスマホを拾った話
はじめて落とし物を拾った
スマホの話の前に、その昔、人生で初めて大きな落とし物を拾ったときの話をさせてもらいたい。
当時、僕は親元を離れて、とある地方大学の学生だった。近くの住まいから大学までは、自転車で通っていたのだが、いつもの道沿いにある空き地に黒い大きめのハンドバッグが無造作に捨てられていることに気がついた。
落とし物にしては空き地にあるのはおかしいし、キレイな状態から時間経過していないことはすぐにわかった。それもそのはず、僕が毎日通る道沿いのため、前からあれば一度は目にしてるはずなのだ。
持ち主特定のために、少し罪悪感がありながらも、バックの中身を確認した。そうすると、中から障害者手帳が出てきた。
障害者手帳とは、障害の等級に応じて様々な福祉サービスを受ける際の証明になるものだ。
当時の僕も、高度な個人情報であることはなんとなくわかった。そのため、詳細は見ることはせず、持ち主は特定できそうだと安心して、最寄りの交番に届けることにした。
交番の警官によると、おそらくひったくりの可能性が高いという見立てだった。数日して、高齢女性からお礼の電話があった。
話を聞くとやはり、ひったくりにあったのだという。幸い彼女は身体の怪我はなかった。手元に戻ってきて本当によかったと、電話越しでもまるで深くおじぎをしているかのように感謝されたことを今でも覚えている。何か形ある謝礼をしたいと言われたが、丁重にお断りした。
それ以来、僕は落とし物はなるべく届けるようにしようと心に決めたのだった。
スマホを落とした話
今度は僕が落とす側になった話。
いまから、8年くらい前だろうかの伊勢志摩へ旅行しにいったときのこと。人生で一度は行っておきたいと思っていた伊勢神宮を観光し、満足した僕は、帰りの新幹線にのって東京に戻ろうとしていた。新幹線の座席に座り、やっと落ち着けるなと思ったときに気づいた。スマホがない。
こう言うときは、ポケットや普段使わない旅行カバンの何処かにあるものだ、自分で自分を落ち着かせながら、探す。しかし見つからない。
わりと冷静な方なのだが、徐々にひたいから冷や汗が出てくる。なにせ、旅行先で紛失などすれば、戻ってくる確率は低くなるにきまっている。しかもすでに新幹線は発車してしまっていたのだ。
同行している友人に事情を説明し、iPhoneにある他の端末から位置情報を遠隔確認できる機能をつかって探してみることにした(Androidにもありますよね)
友人のスマホが示した先は、やはり紀伊半島。しかも、僕のスマホは少しずつ場所を移動しているらしく、明らかに近畿日本鉄道というローカル線の電車内に落としたことがわかった。
しばらくして、僕のスマホのバッテリーがなくなったのか、位置情報を示すマーカーは、虚しく消えたのだった。
正直、終わったと思った(東京着までの3時間、気分は超ブルーである)。
東京駅に着いてすぐ、友人の携帯から近畿日本鉄道に問い合わせるが、予想どおり、まだ落とし物としてスマホは届いていないという。ただただ絶望感。
数日後、再び公衆電話(家電はなかった)から一縷の望みをかけて問い合わせをすると、どうやら僕のスマホらしきものが届いているとの話だった。
なんと、心優しい人が届けてくれたのだ!日本人ありがとう!一筋の光明がみえたようで、とても嬉しくなった。
しかし、その矢先、駅員の発言に愕然とする。
受取りは現地でのみ、お渡します。
(そんなバカな。。また静岡までいくだと?)
ただし、それもそのはず、本人確認がいるからなのだ。通常は駅員の前で、スマホを操作し、パスワードを解錠して、本人確認をするのだろう。なにか一筆書くのかもしれない。駅側も間違った人に渡したり、なりすましを警戒するわけである。
理性ではわかっていても、感情が追いつかない。
しかも、厄介なことに、僕はスマホカバー等をつけておらず特徴的な外観もなく、ただのグレーのiPhone5という月並みな情報しか言えなかった。つまり、自分のスマホであることの立証をろくにできなかったのだ。その日は電話を切るしかなかった。
もう諦めて新品を買って契約するしかないなと思っていたとき、自宅保管してあったiPhoneの箱を何気なく眺めていると、背面にIMEIシリアル番号(製造番号)が記載されていることに気づいた。僕はこれだ!!と思った。唯一無二の自分のスマホを立証する根拠である。
再び、近畿日本鉄道の係へ問い合わせ、今度はシリアル番号を伝え、確かに係員も完全に一致していることを確認してもらった。
そこで、なんとか郵送してほしい、破損しても責任は問わないとこを約束すると、あれこれ交渉した。すると、係員はようやく承諾してくれたのである。
(近畿日本鉄道の係の方、本当にご無理を言ってありがとうございました)
こうして、僕のiPhone5は2週間近く伊勢志摩の旅行を延長して、帰宅することになったのだった。
電車内でスマホを拾った話
時は経過し、2023年つい昨日のこと朝通勤時の電車内で、iPhone13が座席に落ちていたことに気づいた。ほぼ始発の電車のため、客はほとんど乗っていない状況。僕はそのスマホを拾った。
降車するのは1時間後、その間、他人の高価なスマホを保持しつづけるのも、なにか盗人と誤解されそうで、ポケットには入れず、手に持った状態にしていた。
車掌はおらず、運転席までいって渡そうかとも思ったが、運転手に話しかけるのは良くない感じもあり、気乗りしない。
自分のスマホでさっそく電車内の落とし物を拾ったときの対処法をググる。すると、以下とされていた。
問題は4.である。
なぜに、なるはやなのかというと、拾得物は一定期間は届けられた駅で保管されるものだからという。つまり、僕の場合は降車する駅(職場の最寄駅)は1時間後でかなり遠い、そこまで落とし主は取りに行かなければいけなくなるわけだ。
正直にいう、葛藤した。
こころの悪魔の囁き😈
落とした人が悪いんじゃん?べつに遠くても届けるだけいいじゃないか。
なんなら届けるのやめて、棚に置いとけば?
他の親切な人か、届けてくれるよ〜。
こころの天使の囁き👼
すぐに降車して届けてあげようよ。
落とし主は不安で仕事が手についていないかも。届ければきっと鉄道会社に問い合わせが入り、安心できる。
棚に置いたりしたら、悪意ある人に取られたらどうするの?
なお、乗っているのは急行車両、モタモタしてると遠くなってゆく・・。
実のところ、僕は出社時間をわりとギリギリにしており、あまり時間の余裕もない。仮に次の駅で降車した場合、出社時間は15分ほど遅れる。
そんなことを考えていたとき、落とし物のスマホから大きなアラームが鳴った。しかも、聞き慣れない音だ。電車内で焦った僕はすぐに音を止めた。
どうやら落とし主が、iPhone13の位置情報の遠隔確認をしているサインらしい。待ち受け画面にそのような説明が表示された。おそらく、盗難抑止にもなるのだろう。
(ここでようやく、あの伊勢志摩事件のことを思い出した。あれほど、親切な人たちに助けられておきながら、我ながら葛藤するとはひどい奴だと、自戒する。)
ふと待受画面に目をやると、まだ小さな子供(保育園児くらい)を抱いて微笑んでいる女性が写っていた。おそらく母親で、きっと彼女のスマホなのだろう。
僕は次の駅で降車して、駅員へ届けた。先ほどの1から3を漏れなく添えて。
彼女のスマホは無事に帰宅しただろうか?
僕のスマホとは違い、1日くらいの家出ならよいな、そんなことを思いながら朝出社した。
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