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【短編ストーリー】目は口ほどに物を言う

※この物語はフィクションです。

後悔。

もう73歳になってしまった。



振り返れば、人生の折り返し地点は遠いむかし。
人生も佳境といったところか。



「俺はなにをしてきたのだろうか。」



最愛の妻とは5年前に他界。
今は娘が連れてきた、トイプードルと
暮らしている。



「いざとなれば、俺1人か。」



テレビのワイドショーを見ながら、
物思いにふけった。



なんでも、近頃は”孤独死”が多いらしい。
「いくつになっても死は怖いもんだ。」



人間は愚かな存在だ。



終わりを目前にして、初めてそのありがさ
を実感する。



朝起きて、当たり前に朝食があること。
帰宅すれば、「おかえり」と返事があること。
風呂が沸いていること。服が畳んであること。



「俺はなにをしてきたのだろうか。」




地元のセメント工場に勤めて数十年。
この道、一筋でやってきた。



俺には1人の息子と2人の娘がいた。
息子は独身だが、娘たちにはこどもがいた。



「今月も頼む。」



「もういい加減にしてよ!」



俺はクズだ。



妻を失った寂しさを埋めるために、
ギャンブルに、はしった。



おかげで、税金は滞納し
生活は立ち行かなくなっていた。
挙句の果てに、娘たちに金を借りるようになっていた。



「俺はなにをしてきたのだろうか。」



妻が元気な時に、感謝を
伝えたことは1度もなかった。
その気持ちがなかったわけではない。
恥ずかしかったのだ。



「あの時に戻れるなら、」



何度も後悔した。



妻はこんな俺でも愛し続けてくれた。
ギャンブル好きで、どうしようもなくても。
横柄で、態度が大きくても。



「それでも好きだ」と。



妻は大腸がんだった。



見つかった頃には、ステージ3で
既に容体は良くなかった。



俺は毎日、病院へ通った。



妻に感謝し、それを伝え続けた。
あの3か月を忘れもしない。



妻がいない家へ帰るのは、つらかった。
犬だけが出迎えてくれた。



あくる日、医師が言った。
「ご家族の方は1度、お会いするように。」
それだけ、言って病室を立ち去った。



すべてを悟った。



俺は親族全員に連絡をした。
その日の夕方、医師が話があると
皆を集めた。



「残念ですが、今日か明日には、、、」
「無念です。」



妻は親族の中心的な存在だった。
まるで、北極星を失い放浪する
航海者のように俺は絶望した。



その晩は、病室を借りて
皆で順番に寄り添った。



残された時間を惜しみながら、
自分達の時間が来たら、口々に
感謝を伝えた。



日が昇った。



朝食を買いに、院内の売店に
行った帰りだった。



病室の方が、なにやら騒がしい。



まさか。



「Mを呼んで!」
娘のSが言った。



M家族は、睡眠のため
一時的に家に帰っていた。



「すぐに来い!」



M家族が着いた。
2分くらいだろうか。最後の言葉をかける
時間を、妻は待ってくれていたようだ。



皆の泣き声が、病室に響いた。



あの頃を忘れはしない。



「俺はなにをしてきたのだろうか。」



5年経った今も後悔は続いている。


だが、孫の言葉に救われ
前を向こうとする自分もいる。



あくる日、墓参りに行くと、娘のMと
孫のIにバッタリ会った。

孫に声をかける。

「じいちゃんな、後悔してるんだよ。」



「なんでー?」



「そりゃーよ、もっと感謝を伝えるべきだったと思ってな。」



「”目は口ほどにものを言う”だっけ?」



「ん?そんな難しい言葉、誰に聞いたんだ?」



「じいちゃんにピッタリの言葉だって。ばあちゃんが」



そうだったのか。
不器用で、すまなかったな。
ありがとう。そしてお疲れ様。



後悔が少し、希望に変わった気がした。



「俺はなにをしていこうか。」


さいごに、

いかがでしょうか。普段は日常で感じたことを
エッセイに書いているので、ぜひ気になった方は
読んでみてください。


それでは、また次回の記事でお会いしましょう!


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