「使命感」に駆られる場所を間違えた話
先日、広く募る企画を初めて立ち上げました。
そして素敵な小説を書かれる方たちにぞくぞく参加していただいております。大変嬉しいかぎりです。
よろしければ下記マガジンからお読みください。
***
私も企画に添った話を書いて投稿する予定。
だけど…だけど…
なぜか、まだ、書けていない。
そういえば自分が何かの企画に参加するときは、なるべく人の話を読まずに自分の話をつくり、投稿してからゆっくり他の人の話を読んでいた。「ネタかぶっちゃったー」ということもあるけれど気にしない。
だけど今回はマガジンに収録しつつ、ありがたく読ませていただいている。(その感想等は別途)
とにかく、いろんな話を読んでいたら、自分の話が作れない!
まずい! たいへんまずい! どうしよう!
焦った私の目に飛び込んできたのが、この記事だった。(写真だけでも見ていただければ主旨は伝わると思います。まずは記事を見てね~)
これだ。
いま私の心を落ち着けるために、この企画にすがるしかない。
粘土を捏ねて捏ねて捏ねて……捏ねるんだ。
そうだ。
こねて無になれ、豆島。
そしたら創作の神様が降りてくるに違いない。
そして私は百均に走った。
粘土を購入するために。
*
そこは大きな百均だった。
店舗が大きすぎて、粘土はといえば売るほどある。(いや売ってる)
何を買ったらよいのか、慌てて記事を確認する。
しまった。そうか。ここはダイソーだ。
でもサイズなんかどうにでもなる。とりあえず買おう。早く捏ねよう。そして早く小説の神様に降りてきてもらわないと……
棚に向けて伸ばした手が止まる。
……粘土の種類……多くね?
紙粘土 こむぎ粘土 木紛粘土 オーブン粘土 もちっとのび~る粘土 etc.
購入したいのは「樹脂粘土」。
ちょ待って。そもそも樹脂粘土ってなに?
山ほど並んでる「もちっとのび~る」でいいのか?
裏面に書かれた「材質」は「樹脂系中空体」。
なんそれ。
たしか最後に「焼く」という工程があった。この粘土を焼いていいかどうか分からない。
ということは、「オーブン粘土」が無難?
でも色が茶色しかない。
むむむ
ハッキリ言って、どれでも好きなもので作ればよい。
だけどその時の私は焦っていた。
レシピの存在する「眼鏡オジサン」すらまともに作れないような人間に、小説なんか書けるわけがない……
ちきしょう!
私は涙で滲む自動ドアを飛び出て、
そして、セリアに走った。
*
そのセリアは小さかった。
そのため、粘土は3種類くらいしか置いてなかった。
紙粘土、こむぎ粘土、そして、樹脂粘土。
あった! 間違いない。
その事実が、荒れ狂う冬の日本海のような私の心を初夏のお台場くらいのぬるま湯に変えてくれた。
これでいい。これでやっと目的が果たせる。
私は屈んで手を伸ばし、低い位置にある棚の奥底に押しやられていた粘土を全て引き出してみた。
在庫は5つ。白、白、緑、茶、黄。
どの色も子供のプラスチックおもちゃみたいな安っぽい色。オシャレ感がひとつもない。
今朝マグマのごとく湧き上がった創作意欲が、噴火せずに地殻へおとなしくスっこんでいく音がした。
選択肢は、これしかないのか。
本物の眼鏡オジサンの眼鏡と顔パーツはグレーだったけれど、私はその顔に初音ミクみたいな頭髪を付けてあげたかったのに……
粘土売り場で10分程度しゃがみこんだまま、私は悩んだ。
眼鏡……何色で作ろう。
眼鏡だけじゃなく服や靴を作るとしたら……
最低限のコストで最大限の能力を引き出せる色は……
考えろ。捻り出せ。
初音ミクじゃないなら、何オジを作ればいい。
考えろ、豆島。
モーレツに頭脳をフル回転。
目を開けた瞬間、唐突に我に返る。
わたしは一体……何をしているんだ?
貴重な休日。天気の良い昼日中。
楽しそうに新学期の文房具を探している若者の笑顔。
これ買って~とダダを捏ねる子に優しく諭している母親の声。
わたしは一体……ここで何を……
現実に引き戻されそうになったとき、何かの文字がかろうじて私の脳裏をかすめた。
あれは、たしか……
私はスマホを取り出し、急いでスクロールして文面を探す。
これだ。
そう。一番大事なコレを忘れるところだった。
あぶないあぶない。
深く考えちゃいけない。
愛だよ、愛。
眼鏡オジサンに対する愛を再確認したところで私は「白」と「茶」の粘土を鷲掴みしてレジに向かった。
*
樹脂粘土は思ったより硬かった。
丸くするのにも最初は力がいる。
正直言って、20秒くらいで捏ねるのに飽きていたが、そこでまた例の言葉を思い出す。
そう。私は使命感だけでこねている。
それでいいんだ。何も考えるな。
*
捏ねながら先の工程も思い浮かべる。
そういや部品をアロンアルファで接着するとか書いてあったな。百均にアロンアルファは売ってなかったんだよな。めんどくせぇな チッ。木工用ボンドで平気かなとググってみると、他の内容が目についた。
粘土って、混ぜ合わせたら他の色が作れるらしい。(ググらなくても誰でも知ってる)
なるほど。あの緑や黄色も買ってもよかったかもしれない。
私はほんの少し茶色を混ぜてみる。オジサンらしい色になるかもしれない。
なかなか良い。
どこかで見た色だ。
楽しくなってさらに捏ねる。
忘れそうになるとまた思い出す。
そう。それでいい。
そして柔らかくなってからお約束のものを作ってみる。
通過儀礼みたいなものだ。
ここまでくれば捏ねるのが楽しい。
きっとアドレナリンだかエンドルフィンだかが出てるのだろう。
よし。
とりあえず地の色を全部コレにして、あとから絵の具で着色もしよう。アロンアルファがなければ、最初っから一塊で作ってしまおう。
いいぞ。
だんだんそれっぽい形になってきたぞ。
頭と体の大きさのバランスも丁度いいじゃないか。
実物と同じバランスだ。
天才じゃないか、私。
楽しい。
ちょっと難しいけど、楽しい。
作るって、どんなものでも、楽しい!
使命感なんかじゃない。
私はいま、「作る」を楽しんでいる。
*
そして袋に書いてあった通り、オーブンの予熱もちゃんとしてから15分焼いた。レンジのオーブン機能を使ったのは何年振りだろう。
粘土は溶けることもなければ割れることもなく15分後にちゃんと焼きあがった。
そして、偶然持っていた黒いアクリル絵の具で色付けもした。
ぶっとい筆しか持っていなかったので、色塗りはハッキリ言って失敗だ。
だから写真はちょっとわざとボケたものを載せることにする。
遠目で見たらめちゃめちゃ上手い! のだけど、写真にとるとアラがバッチリうつってしまうので、わざとピンボケ。
それでも私は大変満足している。
とても充実した土曜日を過ごせたのは、3児のパパさんのおかげです。パパさん万歳!
これで心置きなく日曜に小説が書けるといいのだが…
それでは、出来上がった眼鏡オジサンをご披露させていただきます。
↓
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というわけで。
3児のパパ様 素敵な企画開催ありがとうございました。
思えば、白と茶の粘土を混ぜた時でした。
「どう見てもうちのパグ男の色やんか」
そして、あらためて気づいたのです。
「そういや私、眼鏡オジサンつくる使命感なんて持ってないわ」
ってことに。
勝手に記事を紹介、引用させていただきまして申し訳ございません。
他の優秀な noter さん達が、きっと素敵な眼鏡オジサンを量産することでしょう。その日が待ち遠しいです。
あらためまして。
おかげさまで楽しい時間を過ごせましたこと、深く感謝申し上げます。
私の使命は、眼鏡オジサンを作ることでもなく、パグの箸置きを作ることでもなく、 #夜行バスに乗って の小説を早く書きあげることでした。
思い出しました。がんばります。
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