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「冒険者たち」と「狂った果実」の三角関係。


中平康という監督がいた。

彼の「狂った果実」という映画がゴダールやトリュフォーに絶賛されたらしく、ヌーヴェルバーグに影響を与えたと言われている。

私は、あまり共通性も感じないが。

ヌーヴェルバーグを、日本では画期的な、革命的な運動だとする傾向にある。
それは何故だろうと、ずっと思っていた。

難解だから、深い意味がある、みたいな誤解。

ゴダール信奉者に喧嘩を売る気は全くないが、分からない=深い。
…とは限らない。

ゴダールも数本見てるが、映画定石を壊した撮り方や繋ぎ方をしているに過ぎないと思っている。
独特の即興演出、即興芸術。

それなら、ダダイズムの方が私には説得力がある。

マルセル・デュシャンの「泉(あるいは噴水)』

ギャラリーに男子用小便器を置いている方が、ずっと面白い。
思考の転換。

先日ゴダール死す、のニュースを聞いて、そうか生きていたのかと思ったくらいだった。
『勝手にしやがれ』はジャン=ポール・ベルモンドだから見た映画だったし。

そして中平康の「狂った果実」も、試しに見てみようくらいの気持ちだった。

変な作り方だった。
やたら喋る裕次郎。
それもクローズアップ。
でもそのエンディングカット、ラストカットの撮り方に私は驚いた。


中平康はアルコール中毒で有名な監督。
「月曜日のユカ」の現場ではいつも泥酔、助監督の斉藤耕一が監督代行していたらしい。

私の友人のCM監督は、中平康が講師をしていた映画学校出身なのだが「職員室ロッカー、その中で中平が酒を飲んでいたのを見てしまった」と言っていた。

私は、映像を頭の中に作ってしまう癖があるのだが、映画よりシュールな画だと思う。
酒に溺れる。
アル中は病気だから、とやかく言っても仕方ない。

でも「月曜日のユカ」は好きな作品だ。

カメラを定点に固定して、部屋の中の加賀まりこを撮っている。

あの時代に、無造作なジャンプショットで繋いでいるのには驚いた。

まるで良い時代のCM、感覚的で、とてもオシャレだった。

それだけじゃない。
場面は横浜元町だったか、中尾彬と加賀まりこが「パパ」のあとを尾行するシーンが、ベルモンドとジーン・セバーグのシャンゼリゼ通りの撮り方に似ていた。

私は、自作の「狂った果実」を絶賛したヌーヴェルバーグ映画、ゴダールへのアンサーショットだったのかも、と感じた。

もしそうなら、とても良い話だ。


さて本題。

「冒険者たち」の監督ロベール・アンリコはゴダールやトリュフォーと同世代。
でもヌーヴェルバーグ作家ではない。

「冒険者たち」はアラン・ドロンの映画で、私が一番好きな映画だ。
10回は見ている。
原作はジョゼ・ジョヴァンニのノワール小説。
3人がトレジャーハンティングするストーリー。
小説では少年なのだが、映画では少年を若い娘にしている。
男たちの青春ストーリーに換えている。
リノ・ヴァンチュラと、「美しき、レティシア」ジョアンナ・シムカス。

パリで挫折した三人、そして微妙な三角関係の三人がコンゴ沖の財宝を探す映画。

彼らが探す本当の宝は、シムカスが演じる「美しいレティシア」だったのだが。

彼女は、流れ弾で死んでしまう。

残された二人は、死んだレティシアの語った、海に浮かぶ要塞島に導かれる。

ナポレオンが作らせた美しき要塞島。(この島だけでも見る価値がある)
レティシアの夢、男たちの夢の象徴。

要塞島、宝を狙うギャングとの闘いで、ドロンは死ぬ。

そのラストカット。

要塞の屋上でヴァンチュラに抱かれたドロン。
空撮で、回りながら、だんだん小さくなる要塞島のエンディング。

このエンディングの撮影が「狂った果実」と同じだった。


「狂った果実」は、裕次郎と津川雅彦の兄弟が、ヒロイン北原三枝を奪い合う。同じ三角関係映画。

ラスト、弟の津川がモーターボートで、裕次郎と三枝の乗るヨットに激突して映画は終わる。
嫉妬に狂った果実。

そのラストカットが、壊れたヨットの空撮で「冒険者たち」の要塞島の撮影と、まったく同じだった。
回り込み、小さくなるヨットのワンカット長回し。

ゴダールたちが絶賛した「狂った果実」。

そのエンディングを「冒険者たち」でロベール・アンリコがやっている。

アンリコもゴダールと同じ世代の監督だから中平康の「狂った果実」を見てない訳がない。

「冒険者たち」では、ドロンたちを騙す日本映画配給会社に勤める男とか、日本食を食べるシーンまである。おそらく日本映画への郷愁。

「冒険者たち」も、中平康へのオマージュだった。


「狂った果実」にオマージュした「冒険者たち」も、後の映画に大きな影響を及ぼす。

千葉真一と真田広之、秋吉久美子で「冒険者カミカゼ」。

藤竜也と三浦友和、紺野美沙子の「黄金のパートナー」。

勝新太郎と高倉健、梶芽衣子の「無宿(やどなし)」。

同じ男女三人で、同じ海底の宝探し映画とは。

ホイチョイプロの原田知世「彼女が水着に着替えたら」もそうだと思う。


さらにジョージ・ロイ・ヒルの「明日に向かって撃て」もたぶん同じ。

ポール・ニューマンとレッドフォード、そしてキャサリン・ロスの三人。

ポールとキャサリンが、自転車で遊ぶ長いシーンにバート・バカラックの曲が流れる。

コンゴ沖の船上でライフル射撃で遊ぶ三人も、あの流麗なテーマ曲が流れていた。

同じ作り方だ。

「狂った果実」から「冒険者たち」さらに「明日に向かって撃て」。
この映画のインパクト。

連鎖するオマージュ。

名だたる名監督たちも、ただの夢みる「映画少年」だった、というお話。




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