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カメラを止めないで!


ワンシーン、ワンカットを試す監督は多い。

長時間のシーン。

独特の緊張感を作りたいのだ。

印象深いワンシーンワンカットはロバート・アルトマンの『ザ・プレイヤー』。

映画界で起きる殺人事件をシニカルに描く奇妙な映画で、トップシーンのワンカット8分には驚く。

たぶんこの導入で映画界の裏側、ラビリンス(迷宮)への導入を狙ったのだと思う。

ブルース・ウイルスやジュリア・ロバーツ、ピーター・フォークなど、たくさんの俳優が本人役で出ている。

『マッシュ』や『ロンググッドバイ』などの異色監督。

アルトマン独特の、巨大ハリウッド映画界に対する皮肉を込めた怪作だった。


そしてオーソン・ウェルズの『黒い罠』。

車の爆発が起きるまでをワンカット4分のオープニングタイトルで見せている。

オーソン・ウェルズのイタズラ。

まだ若いチャールトン・ヘストン主演。

当時はステディカム(揺れ防止機)やドローンなど勿論無いから、レールとクレーン撮影なのだが、長い移動撮影もあるし、機材をどう使ったのだろう。

YouTubeで探して、推測して下さい。


我がヒッチコックも『ロープ』で80分映画を「ワンカット」で撮っている。

ごまかし、ごまかしの80分。

当時はフイルムだし、マガジンには35ミリフイルムは10分しか入らない。

だいたい10分辺りで、家具や黒い服の背中で画面全体を黒くする。

新しいフイルムを入れ替え、同じ黒服から続けてワンカット風に撮る方法を使った。

ワンカット撮影の様に見せている実験映画。

私が視聴した限り、一箇所、失敗している箇所もあった。

突然に、誰かの喋りから始まる普通のカットで私は驚く。

でも編集作業中のヒッチコックが一番驚いたと思う。
しばらく眼を閉じたはずだ。

セットを組み直してジェームズ・スチュアートや他の俳優たちを呼んで再撮影など出来っこない。

頭を抱えたヒッチコックは、立ち上がり、ムビオラ編集機の前で天井を見上げる。

その溜め息の後ろ姿は、5分くらいのワンカット長回しだったのだろう。


現在はデジタル収録で長時間撮れるし、カメラも小さいから比較的簡単だ。

『カメラを止めるな!』のゾンビ映画部分も長いワンカットだった。

でも何故か、ぎこちないワンカット。

私は「下手くそなワンカット撮影だなぁ」と思う。

でもそれは計算されたミスだったのだ。

この映画、ワンカット撮影のカメラミスが起きた理由を説明する展開になる。

何故、ワンカット撮影に失敗したのかを、改めて見せてくれる。

映像のプロたちが一番笑った映画だと思う。

後日、大林宣彦さんに私は「『カメ止め』見ました?」と聞いた。

「見ました。あの監督、天才ですか?」と大林さん。

その反応に、また笑った。


『踊る大捜査線』でも湾岸警察署内をワンカットで撮っていた。

一番印象深いのは『クライシス 公安機動捜査隊特捜班』という小栗旬と西島秀俊のドラマ。

尋常では無い派手なアクションが売り物の刑事ドラマだった。

その8話目。

主要な5人の刑事たちのカルト宗教本部に拉致された仲間を助けにいくシーンが、他に例の無いワンカット撮影だった。

ビルの最上階に居る仲間を助けるために、数十人のプロレスラーみたいな教団員との素手や警棒だけで戦いながら階段や廊下を突き進む5人。

この最上階を目差す全編がワンカット撮影。

小栗旬の激しいバトルから、カメラはすぐそばの西島秀俊に移る。

新木優子や、野間口徹、田中哲治を次々に撮る。

カメラが小栗に戻ると、顔の血のりが増えた顔で戦っている。

他の刑事にカメラが行っているうちに、小栗の顔に血のりメイクを足している。

西島秀俊でも、それを繰り返す。

彼らの「ハーハー、ゼーゼー」は作り物ではない。

5人のメンバーを次々とカメラが捉える。

私はワンカットだと気付いて録画映像を止めて、身を乗り出し、シーン頭からストップウォッチで測り始める。

7分40秒だった。

ネット検索したら、この激しいシーンを求めたのは小栗旬らしい。

なんとストイックな俳優。

ちょっと前の実写映画『ルパン三世』にも驚いた。

細マッチョの体格改造や、独特のセリフ回し。

山田康雄などの「ルパン声」は真似出来ないアイデンティティを持つのに、小栗旬は違和感なく演じていた。

でも映画自体は大凡作。

美術品泥棒ショーン・コネリーの『エントラップメント』や、シャーリーズ・セロンの出ていた『新ミニミニ大作戦』などのシーンを真似た駄作。

同じ泥棒映画のシーンをパクリまくっている。

誰も気付かないと思っているのだろうか。

私の「この監督作は観ないリスト」のメンバーが、また増えた。





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