洋画タイトルが、ヒドすぎる件。
『真夜中のカーボーイ』という映画があった。
アメリカ・ニューシネマの傑作でアカデミー賞も取った。
大都会で一旗あげようと、カウボーイ男がニューヨークに出てくる物語。
娼婦に騙され、スラムの空き家に住む男と知り合い、ニューヨークでの悲惨な生活が丹念に描かれる。
ジョン・ヴォイトとダスティン・ホフマンの濃密な演技で、国立フィルム永久保存登録される。
映画のラスト、憧れのマイアミに向かうバスの中で小便にまみれ息絶えるダスティン。
名作映画だが、タイトルが奇妙だ。
なぜ『カウボーイ』では無く『カーボーイ』なのだろう。
原題も『Midnight Cowboy』なのに。
配給する映画会社の当時の宣伝部長、水野晴郎氏の仕業だ。
ニューヨークが舞台だし、都市全体が車社会だし、現代アメリカ、都会的なイメージを狙って『真夜中のカーボーイ』という題名にしたらしい。
やってくれたぜ『シベリア超特急』の水野さん。
都会に馴染めない田舎者の象徴のカウボーイ姿。
男娼まがいの仕事をさせられるカウボーイ姿なのにだ。
誰か、水野氏を止める人は、宣伝部にいなかったのだろうか。
監督ジョン・シュレジンジャーが、もし日本語を理解したら、鼻で笑う。
今回は洋画タイトルの話。
日本は邦題の付け方が上手だ。
オードリー・ヘップバーンの『100万ドルの盗み方』は『おしゃれ泥棒』。
スタイリッシュで、ロマンティクで、全編ジバンシーを着るオードリーらしいタイトルだ。
キューブリック作品『Dr.ストレンジラヴ または、私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』の掟破りの長タイトルは『Dr.ストレンジラヴ』だけを直訳して『博士の異常な愛情』になった。
奇妙で心に残るタイトルだと思う。
リチャード・ギアの『愛と青春の旅立ち』は美男俳優映画らしいタイトル。
原題のまま『士官と紳士』だったら、日本での大ヒットにはならなかった筈だ。
ヒッチコック『北北西に進路を取れ』(North by Northwest)は自作『三十九夜』の、ほぼリメイク。
主人公は『北北西』に進路を取らないし、正式な方位学的表示でもないらしい。
オープニングタイトルは、それらしくカッコいいが『北北西に進路を取れ』の方が、無実を証明する必死の旅やサスペンスを感じて好きだ。
敬愛するヒッチコック映画でも、許せない邦題がある。
北北西と同じケーリー・グラントの主演作。
『泥棒成金』というタイトルは絶対にミステイク。
原題『To Catch a Thief』だから『泥棒を捕まえろ』か。
まあ、この原題も洒落てはいないが。
担当者は「猫」と呼ばれた宝石泥棒が引退して、リビエラの丘の上の城のような家に住んでいるから『泥棒成金』にしたのだと思う。
ケーリー・グラントとグレース・ケリーが、まるで『金色夜叉』の「勘一おみや」みたいに感じる。短絡な発想でプロらしさが皆無。
まるで『カーボーイ』級の邦題だと思う。
しかし、概して昔の邦題の方が映画の面白さを伝えている気はする。
オードリーの『暗くなるまで待って』やモニカ・ヴィッティ『唇からナイフ』など、映画内容を想像させる味わい深い題名が多かった。
最近は英語が浸透し『ジョーカー』『ジュラシックパーク』『イット』と英語表記そのまま使う事が多い。
昔の映画タイトルの方が、映画を魅力的に感じるのは私だけだろうか。