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『サマータイムマシーン・ブルース』に癒された話



最悪の思い出を、話そう。

私は、CMを中心にした映像ディレクターを生業としている。

さらに、NPO団体「東京ビデオフェスティバル」(TVF)の理事で、このTVFの主催するビデオ映像コンクールの審査員の末席を務めている。

ビデオアートの先駆者小林はくどう理事長や、亡くなられた大林宣彦さんや高畑勲さんなども審査員をされていた40年に及ぶ歴史がある映像祭TVF。

大林さん、高畑さんが、まだご存命だった数年前の話になる。

理事長の小林はくどう氏からの電話がある。

「津田さん、映画を作りませんか? 〇〇区が運営する多目的の劇場というか…プラザが、ありましてね…」

そのプラザが設立何十年かのアニバーサリー記念で、そのプラザを舞台にした映画を作らないかという話がTVFに舞い込んだのだ。

大林宣彦さん、高畑勲さんはご自分の作品作りで手一杯、作れるのは私くらいしか居ない。

面白い話しだし、映画作りは望むところ。

私は「もちろん、やります」と同意する。

早速、小林はくどうさんや、数人で打ち合わせに向かう。

区の担当者は若い女性職員だった。

彼女曰く、このプラザを舞台にしたオリジナル映画を40分くらいで作りたい。

区民、親子で鑑賞できる内容が良い。

予算は2000万円用意出来ます、企画を出して欲しい。

他の制約はない。

オリジナルの脚本が要るなら…と、早速に施設を見せてもらう。

映画上映も出来る施設で、映画が出来るとここで上映会をしたい、と。

定例の落語会やコンサートも開ける多目的プラザだった。

広いロビーもある。

私は直ぐに、『サマータイムマシーン・ブルース』という映画を思い出した。

『踊る大捜査線』の本広克行監督『サマータイムマシーン・ブルース』は四国にある大学を舞台にしたSFコメディ。

ヨーロッパ企画の舞台を、本広監督が気にいって映画化した。

SF研の部室に突然、無人のタイムマシンがやって来る。

H・G・ウエルズのバイクタイプのタイムマシーン。

バカっぽいSF研や写真部員たちがタイムマシーンを使って、数日前に行ったり来たりする脱力系青春ドラマで、永山瑛太やムロツヨシ、上野樹里、真木ようこが出ていた…あんな映画が出来るかも、と。

このプラザを「不思議の国のアリス」」が迷い込むワンダーランドに仕立てて…。

直ぐに脚本作りと同時に、旧知のキャスティング会社に話して、俳優選び。

TVFとして利潤を求める訳では無いし、2000万円の予算をフルに使う事ができる。

私は映画作りに夢中になった。

早速の脚本作り。

このプラザのロビー、壁いっぱいに大きな時計を作る。

その下に30センチくらいの小さなドア(アリスも入れないドア)がある。

実は、壁の向こうにタイムマシンが隠されている。

夜な夜な、若きアインシュタインの亡霊が現れるプラザ。

老齢の日露混血の有名な女性ピアニストが、人生最後のコンサート会場をする場所としてこのプラザを選ぶ。

サントリーホールとかではなく、小さな区民プラザでラストコンサート。

それはなぜか?

しかし、コンサートの数日前に老女ピアニストが突然行方不明になる。

国際的なピアニストを探せ!! 

失踪事件は世界中のトップニュースになってしまう。

ワイドショーのキャスターや、ロシアやアメリカの情報部員の暗躍。

マスコミや警察、公安、そして内閣調査室まで、女性ピアニストを探すが見つからない。

そんな時、アルバイトのプラザ職員(能年玲奈 予定)がアインシュタインらしき人影を追い、壁の奥のタイムマシンを偶然に見つける。

プラザ職員の温水洋一部長や片桐はいり、千葉雄大などなど(だって予算2000万円だ)が、タイムマシンを使って、ピアニストが消えた数日前の過去に行ったり来たり、消えた老女ピアニストを探す冒険ストーリー。

プラザ建設の昭和初期に何があったか?

タイトルは『プラザへようこそ』とした。

担当の若いプラザ女性職員は大喜び。

私は知り合いのCG作家にタイムマシンをデザインさせる。

アインシュタインが大正時代に日本で作った、レトロなタイムマシン。

私は、詳しい撮影台本を作り始める。

そしたら。

ある日、女性職員から、突然連絡が来る。

「映画作り案件がコンペになりました。私の手を離れます」と。

コンペ会場にいたのは、今まで会ってもいない方々だった。

隅に女性担当者も小さくなっている。

真ん中の偉い人が開口一番に言う。

「CMの監督に映画など作れるんですか?」といきなりの発言。
物言いが普通じゃない。

私たちは慌てる。

私は、CM監督の映画や、この映画の監修をしてくれる大林宣彦監督や市川準、リドリー・スコットやトム・スコット兄弟まで出して、CM作家が劣っている誤解を解こうとするが、その方は聞く耳を持たない横柄な態度。

夕張映画祭への出品まで考えている説明をするが、彼は早く終わろうとしている。

『このコンペは、私達をスポイルするために行われている』と、私は理解した。

すべてが消失した。

何が起きたのか分からない。

何かの暗躍があった事は理解できる。

誰かの入れ知恵で、動き始めた別のストーリー。

私たちは潰された。

私は、かなり落ち込んだ。

消えた映画作り。

一年後くらいだったか、誰かが作った〇〇区のプラザ映画をタブレットで視聴した。

公募した誰も知らないヒロインが、プラザの中で、なんか立ち直る話だったか…。

あまり記憶していないが、ヒロインは公募の女性だし、脇役たちも一人くらい知ってる人が出てるくらい。

どう考えても製作予算は500万円に届かないくらいだろう。

長年映像作りをしているから、予算は探れる。

『予算を縮小した? とても2000万円では無い…』
(〇〇区の方、お金の流れを調べられたらどうでしょう…)

当初、映画作りの事でTVFに相談を持ち掛けたのは〇〇区だ。
その条件の中で企画を立案し、プロット提案をする。
その提案に喜ばれていた。
若い女性担当者だけでなく、組織としてのコンセンサスがあるから、数十ページに及ぶ撮影台本まですすんだ訳だ。

何故急に、一方的に、掌を返す様な言葉がなぜ出て来るのか?

それだけじゃなく、区民の税金2000万円の、1500万円。
四分の三のお金は何処に消えたのか。
タイムマシンを使って「闇」を探りたくなる。

まあ、もうどうでも良い話だ。

私は落ち込み、毎日のように『サマータイムマシーン・ブルース』を見ていた。

このおバカ映画に癒されていた。
と言うか冷静さを取り戻す。

見ているうちに、『プラザへようこそ』のプロットを捨てるのは惜しいと思い始める。

ちょうど『ピノキオは死を夢みる』の小説が終わりかけている頃だった。

私は「ピノキオシリーズ」の続編にしようと思い立つ。

パソコンに残っているプラザに隠されていたタイムマシン画像を引っ張り出す。

プラザでは無く、撮影スタジオに隠されていたタイムマシンにすれば…使える。

大正時代、日本に来ていたアインシュタインが、大船で密かに作ったタイムマシン。

映画を中心に置いた、時空を駆けるSFストーリーに置き換える。

主演も女性ヒロインに替えよう。

この際、映画化など、絶対不可能な壮大な展開にしよう。

小説で映画を作ろう。

タイムマシンでキューブリックに逢いに行く。

『死を夢みる』のハンサムなゾンビ男も再登場させる。

そして『ピノキオは鏡の国へ』が出来上がる。

30分のプラザ映画話が、壮大なスペクタクル物語に昇華した。

CM作りとは比べられない高揚感があった。

『サマータイムマシーン・ブルース』のおかげだ。

あの怠惰な大学生たちが、夏の校庭で笑っている。

瑛太や上野樹里、真木よう子、佐々木蔵之介、ムロツヨシ、そしてヨーロッパ企画。

真ん中のタイムマシン。

『サマータイムマシーン・ブルース』のタイムマシンに救われた話。

皆さんも、ぜひ癒されて下さい。




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