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源氏物語と植物園/松谷茂著『植物園の咲かせる哲学』試し読み・上

もうすぐ夏休みですね、教育評論社 編集部です。
旅行を計画されている方もいらっしゃるでしょうか。
今回は人気旅行先の一つである、京都の本。
しかも舞台は植物園です。

京都の植物園? と思う方もいらっしゃるでしょうか。
実は左京区にある京都府立植物園は日本最古の公立総合植物園
大正13年(1924)開園で、2024年は100周年記念イヤーなのです。

取り上げる本は、松谷茂著『植物園の咲かせる哲学』。
第3章にあたる「植物園で読む『源氏物語』」の試し読みです。
今期の大河ドラマ「光る君へ」で話題沸騰中ですね。
そんな『源氏物語』が植物園とどんな関係があるのか。

松谷名誉園長の序文からお届けします。


植物園と『源氏物語』

古典文学の最高峰と称される『源氏物語』。『源氏物語』には、驚くほどたくさんの植物が登場するのをご存知でしょうか。

2008年は『源氏物語』が書かれたとされてから千年。源氏物語千年紀として、京都を中心に大いに盛り上がり、様々な事業が行われました。この時期、ほんまもんの植物で来園者増を図りたいと考えていた私は、当時の技術課長だった金子明雄さんの提案に基づき調べたところ、園内には『源氏物語』に登場する植物が86種類も植栽・展示していることが分かりました。

本章で取り上げる植物は、千年前に紫式部が見ていたであろう植物です。園内では年間を通して鑑賞することができますが、ウメやタケなど、あなたの家の近くでも見つけることができるかもしれません。

紫式部はなぜこれほど多くの植物を話中に登場させたのか。たまたまの部分もあるかもしれませんが、私からすると登場させる必然性があったという場面が目につき、植物に対する観察眼の鋭さに驚嘆します。

彼女は、ただ漫然と植物を見ていたのではなく、長い時間をかけてその植物のフェノロジーをじっくりと観察していたのでしょう。現代人のわれわれが今忘れかけている、植物が成長にともない変わっていく姿を気の遠くなるような時間をかけて見続けていたに違いありません。

この過程で抒情的表現が湧き出たでしょうし、それに磨きをかけ、物語のストーリー展開に多くの植物ーー親子別れの名場面でマツ、には八重ヤマブキ、故桐壺院の思い出話にタチバナ、また自然風景、立派な庭に至るまでーーを登場させました。

ここでは理系的側面から迫り、読み解いていきます。

多くの人に読まれてきた『源氏物語』の新たな魅力が発見できるかもしれません。

(本文の118頁につづく)


以上、導入部分をご紹介しました。
次回は、実際の植物を取り上げていきます。
お楽しみに。

■本の紹介

装画は佐々木一澄さん!

<内容>
京都府立植物園は、庭園でも公園でもない「生きた植物の博物館」。

生存戦略、希少種、生育のウラ側……
カリスマ名誉園長、大いに語る!

著者略歴

松谷茂(まつたに しげる)
1950年京都生まれ。京都府立大学農学部林学科卒。京都大学大学院農学研究科修士課程(森林生態学専攻)修了。1975年京都府庁入庁(農林部林務課)。京都府立植物園技術課長などを経て、2006年6月京都府立植物園園長就任。2010年定年により退職。同植物園初となる「名誉園長」の称号が贈られる。著書に『打って出る京都府立植物園―幾多の困難を乗り越えて』(淡交社)、『とっておき! 名誉園長の植物園おもしろガイド』(京都新聞出版センター)。

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