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死ぬ人が判るOLの話

美冬には霊感というのか、超能力というのか、とにかく不思議な能力があった。殺される人がわかるというやつだ。死ぬ人がわかるのではない。殺される人と死ぬ人が区別できるのだった

映画グレムリンのグレムリン達のような真っ黒な小さい影達が、その人の頭らへんをうろついているときもあるし、体から真っ赤な色が出て見える時もあった。

昔、友達とショッピングモールに遊びにいった時、見知らぬおばさんに「あなた、よくないものがみえるでしょ」と声をかけられことがあった。そのおばさんは自らを霊能者と名乗り、名前は教えてくれなかったが、美冬の変なものが見えるということはズバリ当てて来たので、霊能者というのは本当なんだろうと思った

そのおばさんと話していて、わかったことは、黒グレムリンが見える場合、その人は誰かにものすごく恨まれており、その誰かに間もなく殺される運命にあるということと、赤などのオーラが見えるときは事故で死ぬということだった

目の前の工場長は、グレムリンのほうだった。いい人ではなかったし、人に嫌われないように振る舞うので嫌われる。そんな人だったし、仕事の出来る人に嫌われるという印象も強かったから、誰かに恨まれていても特に驚きは無かった

美冬自身も、居なくなってしまえばいいのにと、強く思うことが何度かあった。製造ラインの班長に昇格して1年ほど経ったある日、他の班長達には手当てが付いているのに、自分には付いていないことがわかった。そのことを工場長に伝えたら、「班長になったくらいでなんで手当てがつくとおもってるんだ」と言われて睨まれたことがあった。美冬はこの時に身を持って知った。この男は自分に都合の悪いことや面倒なことに関してはこういう態度をとり、相手に泣き寝入りを強要することを。だから仕事の出来る人達に忌み嫌われていたのだと

驚いたのは、別の社員にもグレムリン共が集っていた。こんな近場で同時期に二人は初めてだった。

その社員は陰で皆からバカ息子と呼ばれている工場長の息子で、なぜバカ息子とあだ名が付いているのかは察してほしい。マンガやドラマなどに出てくる、偉い人の子供ですっごい無能で性格も悪い糞野郎。それを地でいく人間だった。

バカ息子が行方不明になったのはそれから二日後で、工場長が死んだのはその一週間後だった。死因は急性アルコール中毒だと、急遽行われた朝礼で社長が言っていて、社員数名と飲みに行った帰りに倒れたとのことだった。もともとアル中だと言われていたし、皆はそんなに驚かなかったけど、タイミングがタイミングだけに色々噂はたったが、美冬だけが他殺であると知ってた

美冬の最後の出勤日の退勤時間少し前に、バカ息子の遺体が見つかったと総務から張り出しが出ていた。そのまま美冬の送別会という段取りになっていて、話題が1つ増えたなと、我ながら冷たい感想を抱いた。

一旦自宅に帰って着替え、徒歩で居酒屋に向かいながら美冬は、これからは人に優しく生きようとしっかりと強く思っていた






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