見出し画像

お星さまの味


ある満天の星空の夜のことです。
―ねぇ、ママ、お星さまって、どんな味がするのかなぁ?
坊やがたずねました。
ママは笑って、
―ママはね、うんと甘いんじゃないかな、と思ってるよ。
と答えました。
―キャンディよりもずっとずっと甘いんだよ。
坊やは、そっかぁ、と言いました。
―おいしいんだろうなー
―そうね、お星さまの味は、夢の味ね。
二人は仲良く手を繋いで、家路に着きました。

坊やが少し、大きくなった頃、ママが悪い病気にかかってしまいました。
毎日薬を飲んでも、ごはんを戻してしまったり、とても辛そうでした。

ある夜、パパが辛そうな顔で坊やを呼びました。
―坊や、お話を聞いてくれるかい?
パパの話は、ママの体の具合がひどく悪く、しばらく帰って来れない…というものでした。
―入院、と言ってね、病院で眠ったり、お医者さんに薬をもらったり、看護師さんに手を握ってもらったり、するんだ。
ママはとっても具合が悪くて、パパも坊やもしばらく会えないんだ。パパと一緒にママの帰りを待とうね。
そんな内容でした。
パパはひどくしんどそうで、坊やはうなづくしかありませんでした。

時が過ぎ、坊やが少年になった頃、ママが亡くなりました。
あれから、少し、病状が回復したママは家に帰ってきて、いつもどおり、にこにこしながら、坊やとパパのごはんを作ったり、めんどうを見てくれました。
パパは
―無理をしちゃ、いけないよ、とたしなめましたが、ママは笑って
―動いてる方がラクなの。
と答えました。

ママの葬儀を終えて、ふと夜空を見上げると、満天の星空が広がっていました。
坊やはもうかつての坊やではなく、少年でしたので、人は死んだら星になる、なんて嘘っぱちだと思っていました。けれど。
―キャンディよりもずっとずっと甘いんだよ。
ママの声が聞こえた気がしました。
※※※※
時が流れ、少年は青年になり、一人の女性と恋に落ち、結婚しました。時々喧嘩したりもしましたが、三人の子供に恵まれ、幸せでした。
そうして、壮年になり、老年になり、いま、彼は息を引き取ろうとしていました。パパ、や、おじいちゃん、という声が聞こえますが、もう目があまりよく見えませんでした。
不思議な事に、幼い頃、母と見た満天の星空が見える気がしました。
あぁ、星の味がわかるんだな…。
そう思って彼は目を瞑りました。

星の味は甘くて、でも、ほんの少し、しょっぱいものでした。

#創作大賞2023 #オールカテゴリ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?