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北海道のフライフィッシング 一「おいっ!」の淵の川で自分を釣る、2度も一 第3章 (全8章)『林道よ、お前もか!』

 
第1話
 さて翌朝は快晴。
 北海道の初夏の空気を胸いっぱい吸い込みました。

 車のエンジンをかけると、いよいよ今年のフライフィッシングシーズンがスタートした気分になってきました。

 「おいっ!」の淵の川の林道入口までは10分ほどです。宿泊地から釣り場まで10分というのは、これまでの釣行から考えると、もう目と鼻の先といった近さです。
 
 キャンプ場を横目に、アスファルトからバラス道へ変わるというあたりで、前方に林道が見えてきました。いよいよ渓流への入口です。
 しかし、林道の入口には何やらチェーンのような物が垂れ下がっています。
 そして、林道入口が目の前というところまで近づくと、それは林道を封鎖する鎖だということが判明しました。
 チェーンには看板がぶらさがってあり、
「落石のため通行止め」
とありました。


第2話
「なに!入れない?」
 そういえば、ブラウントラウトを釣った千歳の川も2度目に行ったときは林道を封鎖していました。そのときは素直に諦めました。
 しかし、今回、ここまで辿り着いた苦労を思うと、仕方がないなと諦めることは到底できませんでした。何か方法はあるはずです。
 とりあえず、林道入口の駐車場に車を停めました。

 ここまで来たのだから他の川を探すか、ここから入渓するか色々と方法を考えていると、横に停めている乗用車にも人が乗っていて思案中のようです。
「ははぁ同じこと考えている人がいるんだ。」
 話しかけてみることにしました。

「釣りですか?」

「いや、山菜採りでね。」

「ゲート閉まってますね。」

「こればっかりはね。あんたがた釣りでしょ。ここ、でかいのがいるよ。虹鱒がね。」

「虹鱒ですか。」

「うん。去年40cmのが釣れたよ。」

「よっ、40cm!」

 「40」という未踏の数字にガツンと一発くらわされました。今まで私が釣った最大のサイズは34cm。しかも、7年も前のことです。

「そんなにでかいのがいるんですか。」

「ミミズでね。」


第3話
 その人にいろいろこの川のことを聞いていると、1台の軽トラックがゲートの前で停まりました。

 作業着の男性が降りてきてチェーンを勝手に下ろして車を林道内に乗り入れ、また、チェーンを引っ掛けて林道を上って行きました。

 私が驚いていると、
「あれぁ山菜採りだね。」

「入れるんですか?」

「みたいだね。」

 もうゲートさえくぐれば、なんとか川に立つことが叶いそうです。
 お義父さんと目が合いました。

「着替えましょう。」


第4話
 早速ウェーダーに着替え、チェーンを下ろし、林道に入りました。
 チェーンから先は結界に入ったように別世界でした。

 昨年入渓したであろう車停めが見つかりました。
 ここでいよいよタックルの準備です。
 どちらのロッドを使おうか。

 それまでは3#ロッドばかりを使っていましたが、この日はSAGEというメーカーの4#ロッドを使うことにしました。

 このロッドは、北海道へ毎年のように通ううち、何度か尺上が釣れるようになり、もう少し硬くて尺上にも通用するロッドが必要になってきたために一昨年購入していたのでした。

 しかし、実践で使用したものの、丸2年このロッドでは1匹も釣れたことがなかったのでした。

 昨年夏、この川で泣き尺の虹鱒を引きずり出して以来、この川に棲むさらなる大物への期待を膨らませ、やっと今その岸辺に立てたのです。
 そして先程「40cm」と聞いたとなれば、柔らかい3#よりも硬い4#。
 もう、4#以外ありえません。
 躊躇することなく3年越しのSAGE4#ロッドを手にしました。


   第3/8章 『林道よ、お前もか!』完


 



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