北海道のフライフィッシング 「おいっ!」の淵の川で危うく遭難しそうになる 第4章(最終章)『観音様のご守護はあるのか⁉』
全5話
第1話
すると、後ろから
「戻ろうか。」
と、お義父さんの声がしました。
「戻る?」
せっかくここまで来たのに?
確かに、もうこのまま前進することは無理です。一旦退却するしか道はありません。
パニックに陥りそうになっていた気持ちがすっと落ち着いてきました。
「そうしましょう。」
と、ぐるっと回れ右をして、自分達が切り開いた形跡を頼りに、もと来た藪を漕いで川へ戻りました。
川へ出ると、爽やかな風に気分も体も軽くなりました。まるで重い荷物を下ろしたようです。
焦る気持ちから、お義父さんまで巻き添えにして遭難しそうになった己の判断や行動を反省しました。
「お義父さん。下り過ぎたことは確かです。飛行機には間に合わないかもしれませんが、じっくり爆竹の赤いかけらを見つけながら歩きましょう。」
と、腹を括ってゆっくり遡行を開始しました。
すると、歩き始めてすぐ、ほんの数メートルのところで爆竹の赤い紙片が見つかりました。お義父さんが鳴らした爆竹の紙片に違いありません。
そして、視線の向こうには入渓地点がぽっかりと開いて、来るときに見た治水の看板も見えました。
こんな分かりやすい場所を見過ごしていたのか。
ほっと、本当にほっとしました。
振り返ると、お義父さんも満面の笑みを浮かべて頷いています。
第2話
時計を見ると、フライトに間に合うか間に合わないかの瀬戸際どころか、とても間に合いそうにありません。
とにかく、諦めずに足早に林道を上り、やっとのことで車に辿り着くことができました。
すぐにスーツケースをバラス道に広げて着替え始めました。普段なら、帰りの支度をするのに30分はかかりますが、今回はそんな余裕はありません。ここで少しでも時間を挽回しなくてはなりません。
もう二人とも全身水をかぶったように汗びっしょりで、肌着が身体にへばりついていて、着替えないわけにはいきません。汗まみれの肌着を脱ぐと、身体の周りを無数の虻が飛び交い始めました。
しかし、虻には目もくれず一心に身体を拭き、新しい肌着に着替え、さっぱりとした気分で車に乗り込みました。
第3話
あとは事故のないようにレンタカー店まで運転するだけです。
道順は全く分かりませんが、このような知らない土地での運転はカーナビが頼りです。空港近くのレンタカー店を目的地に設定し、車を飛ばしました。
江別西から高速に乗り、車は順調に新千歳空港へ向かっています。このまま何もなければ、なんとかフライトの時刻には間に合いそうです。
いよいよ札幌ジャンクションに近づきました。カーナビは、高速を降りるよう指示しています。疑うことなく札幌を降りました。
ところが、ここでお義父さんが、
「苫小牧方面に行くんじゃなかったかな?」
とカーナビの指示に異議を唱えました。
第4話
確かに。苫小牧方面に行くのが当然でしょう。
しかし、カーナビが間違えるとも思えません。
一旦近くのコンビニの駐車場に停めてコースの確認をすることにしました。
地図で確認すると、お義父さんの言う通りです。カーナビがどのように判断したかは分かりませんが、あのまま道央道を走れば新千歳空港までスムーズに行けた筈です。
「しまった。カーナビめ!せっかく間に合うところだったのに!」
今さらカーナビを恨んでも仕方ありません。もう一度高速に乗るしか方法はありません。ぐずぐずしていたら本当にフライトに間に合わなくなります。もう、一刻の猶予もありません!
先程までの安堵感はいっぺんに吹き飛んでしまいました。
第5話
駐車場へは頭から入っていましたので、そのままバックで道路へ出ようとアクセルを踏みました。
後ろをミラーで確認しながらハンドルを切っていましたが、いつもの習慣で振り向いて目視に切り替えました。
すると、目の前に大きな街路樹が・・・。
思わずブレーキを踏み、ハッチバックすれすれところで激突を免れました。
「落ち着け、落ち着け!」
焦りのため判断を誤ってばかりです。
もう一度コンビニの駐車場に入り、Uターンして、今度は無事前から道路に出ることができました。
やっとのことで飛行場に着き、搭乗したのは離陸10分前でした。
ほっとしたというよりも、反省しきりの帰路となりました。
今回の釣行では、1回目の失敗で気づいていたのに、2回目も脱渓点に目印を付けなかったことで遭難しそうになりました。
結局、すべて焦りから判断を誤っています。遭難しそうになったり事故を起こしそうになったりして、よく無事で飛行機に乗れたものだと思いました。
と同時に、性懲りも無く来年の釣行先は「おいっ!」の淵の川と決めたのでした。
最終章
『観音様のご守護はあるのか⁉』 完