フリーランス翻訳者が妊娠したとき:妊娠時にフリーランスだったメリット、取引先への報告など
先日、SNSで「フリーランス翻訳者の出産・仕事復帰体験ってあまり情報がない」という話題を目にしました。私もフリーランスの状態で妊娠・出産し、産後に復帰した一人ですが、子どもを授かった当時、自分と同じように妊娠前からフリーランスだった方のお話がうまく見つけられなかったり、自治体から発信される情報も会社員または産後就職したい方向けのものばかりだったりして、情報収集に苦労しました。フォロワーさんのおひとりがこのことをテーマにオンラインで情報共有会も開いてくださったのですが、タイミングが合わず参加がかなわなかったこともあり、このブログでも「フリーランス翻訳者の妊娠・出産・仕事復帰」について書こうと思います。
そのフォロワーさんもご自身のブログで書いていらしたのですが、どういう時期にどんな形で復帰することになるかは、自分自身・周囲の大人・子ども各自の個性や体力によって本当に千差万別です。加えて、経済的な状況や自分の仕事に対する思い、産前のお取引先との関係などでも変わってくると思います。生まれてくるあかちゃんが二人と同じ子がいないのと同じくらい、妊娠・出産・仕事復帰も個人差があるものですので、フリーランス翻訳者のごく一例として読んでいただけましたら幸いです。同時に、もし妊娠・出産・復帰について迷っている方がいらっしゃったら、このブログのコメント欄(鍵付きで非表示にもできます)やSNSなどでお声をかけていただいてもちろんOKです。立派なアドバイスなどはできませんが、何かの糸口になればうれしいです。
・妊娠当時
子どもを授かったのは、フリーランス翻訳者として仕事を始めて3年ほど、個人事業を開いて1年半ほどたったころのことでした。不妊治療を経ての妊娠でしたので、妊娠前の治療のための通院や妊婦健診の予定、体調の変化などを組み込んで仕事のスケジュールを立てやすかったのは、フリーランスのメリットだったと思います。平日通院する分、可能な範囲で土日や早朝に稼働することもありました。が、スケジュールを詰めすぎないようにしていたので、妊娠による体調不良を理由に納期を延ばしていただいたことは幸いありませんでした(つわりがあったもののそこまで重くなかったのが一番大きかったと思います)。
また、メールでのやりとりが主でお取引先と顔を合わせませんので、妊娠を報告する前に体形や体調の変化などで周りに気づかれてしまうかもといった不安がなかった、体調が悪いときは周囲の目を気にすることなく横になれた、というのも、今思うと精神的によかったです。
妊娠後期はかなりお腹が張りやすくなり、机の前に座っているのがだいぶきつかったです(1時間たたずに張ってしまうこともあった)。張ってきたら健診時にいただいた張り止めを飲み、ソファでお腹が柔らかくなるまで休憩していました。納期が迫っているときは、張ってくると「あと少し待ってくれ~」とお腹をさすりながらねばったこともありました。大きな体調不良は幸いありませんでしたが、薬が基本的に飲めないので、もともとあった片頭痛や風邪で咳だけ残ってしまったときに、弱い薬で和らげて収まるまで待つしかなかったのがつらかった記憶があります。
・フリーランスと産休
産前・産後休業(産休)の期間は「産前6週(多胎14週)、産後8週」、対象は「働いている女性:パート・派遣、契約社員など全て」と決まっていますが、「女性が請求した場合および産後 8 週間については原則として就業を制限する」と労働基準法にある通り、これは雇用主に課された義務であって、フリーランスが出産を理由に休みつつ収入を補填されるような制度はありません。休みは休み。そして、休みに入ったら一切の収入はなくなる。パート社員でももらえる出産手当金もありません(パート社員は被雇用者ですが、フリーランスは雇用されていないため)。さらに、取引先とのつながりも普通は一度切れてしまいます(つながりの保ち方は産前の関係性によっていろいろ考えられるかもしれません)。フリーランスは産休の枠にしばられない自由さ(いつまで仕事をし、いつまで休み、いつ復帰するかをすべて自分で決められる)ゆえに選択肢が多いのも事実ですが、このように被雇用者が受けているさまざまな保障を受けられない厳しさはやはりあります。
これらを理由に、出産ぎりぎりまで仕事をし、産後もすぐに復帰するフリーランスの方は多いようです。経営者もこのくくりに入りますし。フリーランスの妊娠・出産事情を検索すると、だいたいそういったスーパーウーマンの情報が続々と出てきて、私は気おされてしまいました。
逆に自分は、翻訳の仕事は産後も続けたいけれど産んですぐに復帰しようという気力も気概もなく、胎内にいる赤ん坊のことを考えてもしゃかりきに仕事に復帰するというよりは子育ての経験を味わいたいと思っていましたので、復帰時期についてはかなりゆるゆると考えていました。…というより、出産して1年はずっと迷っていて、具体的にいつかというのは考えられませんでした。
・取引先に休業することをいつ伝えたか
妊娠した当時は、翻訳会社1社、個人の方との書籍の下訳、翻訳通信講座の添削の3つの仕事をしていました。仕事内容の負担・分量・スケジュール、それと産後も続けていくかどうかを考慮したうえで、それぞれの仕事にとって1番いいと思われる区切りの時期を自分で決めて取引先にご相談し、産後の復帰時期は未定という形で妊娠の報告をすることにしました。
「産後の復帰時期は未定」としたのは、一般的な会社員の方は産休・育休に入るときにどんなふうに連絡するのだろうと思って調べた際に、「産後は自分も子どももどういう状況になるかわからないので、育休の期間が決まっていたとしても復帰時期は明記しないほうがよい」という情報を目にしたこと、また、次回書きますが、子どもをいつ保育園に入れるかも決められずにいたことが理由です。
具体的な妊娠の報告時期、区切りをつけた時期は下記の通りです。
通信講座のお取引先には出産予定日の半年くらい前に(安定期に入ってから)ご報告し、予定日が1月末だったことから、年内いっぱいで一度仕事に区切りをつけたいとお伝えしました。
書籍の上訳者の方にも同じ時期にご報告し、予定日までに下訳を終えることを目標としつつ、完了していない場合でも今回のお仕事は出産までとさせていただきたいとお伝えしました。結局、下訳が出産1週間前くらいに終わり、あとは参考文献のデータ入力を数ページ残すのみ、というところまで続け、出産2日前まで仕事をしていました。
翻訳会社には予定日の3カ月くらい前にご報告をしました。それまで1年以上担当していた毎月発生する定期の仕事があったので、その案件のみ年内まで担当し、そのほかの新規案件は以降は原則辞退させていただくようにしました。
こうして、妊娠後期は下訳と通信講座の添削は通常どおり受けつつ、翻訳会社とのお仕事はほそぼそと続ける形にさせていただきました。下訳・添削をしつつ翻訳会社からのお仕事もバリバリ受けるだけの余力はなかったのですが、翻訳会社とは産後またお取引をさせていただきたいと思っていましたので、出産まではなんとかその糸が切れないようにしておきたい、と考えてこのようにしました。
こうして書いてみると、自分の体調を見ながら、書籍の下訳に関して出産ぎりぎりまで責任を果たそうと努めることができたのも、フリーランスならではのメリットだったのかもしれません。産後、育児でぼろぼろだったときに、できあがった書籍を上訳者の方が送ってくださり、実社会や産前の自分との架け橋が突然目の前に現れたような気がしてしみじみとうれしかったです。
とはいえ、会社員等であればいや応なく産休に入る産前6週間(1カ月半)くらいはお休みにするほうが、出産準備や産後の預け先の検討などに時間を当てることができていいかもしれません(体調管理、出産に向けた体力アップの必要もありますし)。産後のことをどう考えていたか(考えていなかったか)については、次回書きたいと思います。
お読みくださってありがとうございました!
[旧ブログ2021/10/2の記事より転載]
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