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まみむめも

新しいバリエーション。
バレエでは新しい振り付けを習うとき
そんな風に言う。
新しい。バリエーション。
いまわたしは、だんだんそれに身体を慣らしている。

わたしはわたし。
何才でも、女でも、役者でも。
わたしはわたし。

何か変で、気持ち悪くて
サラッとしているところもあって。

ビールを呑んで眠れば
難しいことは大体忘れられる。

恋されたりしたりすることは
得意じゃないんだ。
昔から。
縛ったり縛られたり
どこからどこまでが自分で
どこからどこまでが相手か
わからなくなるの。

それならただ心の中だけで
想ってる。
誰も知らない言葉。
そのほうがずっと安心して
愛し続けられる。

与えたり与えられたりすることは
わたしには強すぎる。
強すぎてすぐにグロッキーになる。

もう少し子ども向けの
甘いワインみたいに。
わたしは
生々しく迫ってくるもの
ほんとうとか、世間とか、欲望とか
そういう輪郭のあるものが
苦手なんだ。

指を歯で噛む。
髪の毛を触る。
お風呂のお湯の中で
空気をぶくぶくさせる。

それは自分が自分でいるために
必要なこと。
ここがまだ、わたしの生きられる
余地を残した世界だと
確認するみたいに。

お酒は境界線を
ぼやかしてくれるから
好きなんだ。

大人だから。
ちゃんとしたり
責任をもったり
正しくいたり
一貫してたり
タフだったりしないといけないから。

そのどれもしたくない夜は
そのどれもしたくないわたしは
まみむめも、と口の中で呟く。
白ワインに氷を入れるのが好き。
料理をしながら呑むのが好き。

まみむめも。
一番言いづらくて
甘えんぼみたいな、ま行が好き。

おばさんになったら
甘えんぼでは駄目らしい。
でも結局わたしは
変われないような気がするのだ。

ふらふら。
おろおろ。
矛盾して、弱くて、間違って。

ほんとうはもう限界って
言えないことが
わたしがついている
一番大きいうそ。

わたしはうそつき。
はじめからうそつき。

優しい、うそをつこう。
せめて。
わたしの命ごと夢ごとの
真剣なうそを。


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