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初note  短編『まつりの日』

子猫のポンは、とけた銀のように見えた。

真夏の正午。

黒いほどの濁りのない青空も、暴力的な太陽にかすんでいる。

砂が舞う。地表がえずき、吐き出しはじめる。

ガラスのようなツルリとした物体を、次から次へと。

物体は、空気に触れた途端にふくらんでいき、中に色を浮かべ始める。

そうして、風船のように丸くなって、プウカプウカと天へ向かうのだ。

この1年の間に死んで、地中へ沈んでしまっていた魂がすべて昇天する日、が今日。


あの黄色の風船は、チョウチョだったんかな。

それとも、タンポポかな。

いくつもくっついている茶色いのは、スズメかな。

かれらがフワクルと昇っていくのが、ポンにはおもしろかった。


その時、やさしく胸を抱かれた。

なつかしい記憶に。緑色に。

待っていた相手があらわれた。

「じいちゃん!」

ポンは、走り寄って叫ぶ。

「オレな、虫、とれた!」

その風船は、一瞬だけ、動きをとめた。

一瞬、死ぬまぎわにポンを見た瞳と同じ深い暗い色になって、またプウカプウカと昇っていった。


すいと日がかげって、ポンの体は黒と灰の縞々に戻る。

見上げると一羽のオオワシが、光の下で、真っ黒いつばさを広げてぐんぐん近づいてくる。

反射的に、近くの枯れた藪の中をめざしてダッシュする。

必死で走りながら、ポンは水場のことを思った。

(おしまい)


ここから自己紹介です。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

名前は、イワンチョといいます。ショートショートや絵本を作るのが好きです。

別媒体で投稿してきましたが、note という場所があることを知り、今までのものを加筆修正したものや新作を、投稿したいと思いました。

よければ、次作でお会いしましょう。




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