ブーツで労災?!
私は小学生の時に、自宅で一人で“スキーごっこ”と名付けて、絨毯の上で滑る遊びをやっていた。
…といっても実際は野球のスライディングに近いものだが。
その時、両親には来客が来ており、別室で私は一人でそうやって遊んでいたのである。
すると、突然滑った時に足首がおかしくなり、痛いと訴え、通院した結果、“捻挫”ということだった。
翌朝、通学する時も車で通い、目立って恥ずかしかったことを、おぼろげに覚えている。
このことが、後々色々影響を与えるとは、つゆ知らず…。
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それから時が経ち、大人になって仕事で電車通勤していた頃の話である。
当時冬で、寒くてブーツを履いていたのだが、若干厚底だったと記憶している。
その出勤時に父がたまたま休みで、「駅の近くまで送ったろ。」と言ってくれ、お願いした。
そして駅の近くに着き、
「ありがとう!じゃあ、いってきます!!」
と、お礼を言って、車を降りて2、3歩歩いたところで、
突然、コケた。
石や段差があったのではない。ブーツの厚底部分で、足がグネっといってしまったらしい。
起き上がるにも、起き上がれず、寒い道路の上でしばらく(自分では長い体感に思えた。)冷たい地面にうつ伏せになっていた。
道行く人に「大丈夫ですか?」と声をかけられたような気もするが、今となっては記憶が曖昧である。
すると、父が自宅に戻ろうとUターンをしてバックミラーを見たらしい。
「あれ、あそこでカエルみたいにこけた娘がおるなぁ…あれ、らびっとやん!!」
と、慌てて戻ってきてくれたのだった。
その足で、早速自宅に帰り、会社に連絡をして、近くの病院へ行った。
その病院は現在はないが、よく知っている割に私は行く機会がなく、その時初めてお世話になった。
そこそこ建物は大きいところで、しょっちゅう外からは見る機会があったが、外から見る以上に、中は古びた感じであった。
そして診察を待っていると、呼ばれて中に入った。
するとそこには、何とも若くて(当時の私に近い歳と思った)、イケメンな先生がいらした。
恋をしたわけじゃないが、あまりイケメンにお会いする機会がなかったので、なんだか気恥ずかしい。内科でなくて良かったかも?と今でも思う。
ただ、問題はそこからだ。
「今日はどうされましたか?」
…しまった。
内科でなくて良かった代わりに、どうして来ているのかを言わなくてはいけない。しかもかなり内容的には恥ずかしい。
言いたくないけど、言わないと治療してもらえない。
頭の中がすっかり真っ白になり、どこまで話して良いのか、何と言えば良かったのか、分からない。
私は小さい声で
「………でこけました…。」
と言うのが精一杯だった。
「え?何ですって?よく聞こえなかったので、もう一度お願いします。」
「………でこけて、足をくじきました…。」
「え?もう一度?」
「ブーツでコケて、足首をくじきました!!」
と、遂に覚悟を決め、デカい声でほぼ“叫び”に近い感じで言った。
イケメン医師は「あ、そうですか…。」とややドン引き気味だったかもしれない。ある意味怖くてあまり先生の顔を見ることができなかった。
そしてそこからは普通に診察を受けて、後は会計という段階で待っていると、受付の人に呼ばれた。
「あのう、通勤途中でケガされたんですよね?」
「あ、まぁ、そういうことになります。」
「そうすると、健康保険証扱いはできず、労災扱いになりますので、今日は全額払って頂く形になります。後に労災の方から差額分が戻ってくる形になります。」
「ええぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!!」
何ということだ、こんな些細なことで労災になるなんて…。
しかも全額払えって言われても、その当時私にはそれだけの持ち合わせが財布にはなかった。
またもや父に連絡をして、事情を話し、お金を持って来てもらいがてら、迎えに来てもらった。
父には私のために近場だというものの、くだらないことで何度も行き来してもらわなくてはならなくなった。
最悪としか言いようのない気持ちであった。
父にも車の中で大概呆れられたが、当然母にも散々呆れられ、お説教に近い小言を言われた。
立派なセカンド捻挫である。
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その日は会社を休み、次に会社に行った時に、今度はいよいよ労災について相談しなければならない。
幸い、担当者は私が入社以来大変お世話になった先輩職員(女性)だったので、話はしやすいが、内容が全くいただけない。
案の定、彼女は腰をふんぞり返らせて、大笑いをした。
まぁ、普通笑うだろう。実際このことを知った仲の良い同僚にも笑われている。何なら俯瞰的に見ると自分でも笑える。ここまで来ると恥ずかしいも、へったくれもない。
そして私は彼女に教えてもらった通り、書類を書いて提出して、時間はかかったがお金も無事返却され、親との精算も済ませた。
それからしばらくして、母と玄関にいる時に、
「そうそう、アンタ、このブーツ、もう捨て!!こんな縁起でもない!またこんなん履いとって、こないだみたいになっても、かなんで!!捨てなさい!!」
実はそのブーツはまだ2~3回しか履いたことがなく、そういう意味では残念だった。だが安物だし、確かに母の言う通り“二の舞”になっても困るので、あっけなく
「はい………。」
と、承諾して、おさらばした。
それからというもの、ブーツは特にだが、普通の靴でも厚底やヒールの高い靴は履かないことにして、ありとあらゆる店を回って、自分の希望のサイズ、色、そして何より靴底が厚くないものを選んで履くようになった。
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それでも、実際その後もしょっちゅうではないが、ブーツでも何でもない、底が浅い靴を履いているにも関わらず、道端で突然コケている。
ある時私がコケたのを見かけたお店の方に、
「あ~あ~、どないされたんですか?何もないところでいきなりコケられて…。」
と、わざわざ店先から出てきて下さり、声をかけられたことがある。
「いえ、こういう足首で、いつものことですので…。大丈夫です。ありがとうございます。」
というのが、精一杯であった。
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また、ある時は仕事で男性の先輩職員と一緒に歩いていた時にコケてしまい、
「いやぁ、ビックリしたよ。話しかけようと横を向いたら、らびっとさんがさっきまでいたのに、急にいなくなったから。」
と、笑いながら言われた。(これは軽症で、すぐに歩けたので労災ではない。)
いなくなったと思われるほどに、道端に沈んでいたのであろう。我ながら、情けない。
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もう私の両足首は、既にぐにゃぐにゃで、いつ捻挫を引き起こすか分からない。
長年それで生きており、鍛えることを提案されたこともあったが、それを鍛えている最中も、持ちこたえるか分からないので、助言は有り難かったが、敢えてやっていない。
その運動内容を聞いて、その運動をしている時点で捻挫をしない自信がないというのが、私の見解である。
さまぁ~ずの三村さんが、番組のロケ中にそれぞれ別の時期ではあるが、両膝をやってしまい「膝がグニャグニャ」と言われていたが、私はそれの足首バージョンで、気持ちがとてもよく分かる。
そこへ、更なる体重の増加で、予断はゆるさないのである。
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時々、小学生の時のスキーごっこをした自分のことを思い出すことがある。
仮にタイムマシーンが本当にあるなら、その時の自分に言ってやりたい。
「そんな遊びしとったら、将来とんでもないことになって、確実に恥もかくし絶対困るから、やめとった方がええで。それより読書でもしとき。」
と…。
ついでに父にも、
「明日は我が身やで。お宅も歳いったら、同じような目に合うんやから。人ごとちゃいまっせ。」
と、伝えてやりたい。
▽父がコケた状況はこちら
ドラえもんの道具で欲しいものはいくつかあるが、私は取り敢えず、どこでもドアとタイムマシーンが本当に欲しい。
ただ、仮にタイムマシーンで伝えたところで、別のところで同じようなシチュエーションをやりかねないので、本当に防げるかは甚だ疑問だが。
普通に歩くのは勿論、通勤労災には、十分ご注意いただきたい。
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