親ガチャ
両国から、東京ビックサイトに軽自動車で向かっていた。
「俺、親ガチャに勝っちゃたんだよね」
先輩が言った。
Twitterや2ちゃんでもあまり見ない言葉を聞かされ驚きのあまり
変なタイミングでウインカーを出してしまった。
後ろの車が車線を変えた。
親ガチャ王とはよく仕事を辞めたい話をしていた。
「君は絶対、僕より後にやめる絶対に」
と予言じみた名言じみた願いじみた発言を、
飲みの最後に必ず浴びせられた。
結局、その願いはかなわず僕が先に辞めることになった。
イタリアで靴を作りたいと言っていた。
いつ行くんだろうか。
それを待っていたら僕は152歳になり寿命が尽きて、しんでしまうだろう。
その先輩は2つ上だった。
貯金が2000万円あるらしい。
中国人のガールズバーの女の子と上野でデートをした。
日本に住んでいる中国人が全員集まっているのではないかと思われるほど
中国人で賑わっている火鍋のお店だった。
中国の男性が大声で店員さんに何やら話しかけている。
店員さんも大声で対応する。
「怒ってる訳じゃないからね」
彼女が笑いながら解説してくれる。
10歳から日本に住む彼女は、中国と日本の両方を知っているため
日本人が中国人に思いがちな違和感みたいなものをすぐに説明してくれる。
火鍋屋は楽しかった。
卓上を豪快に使い、スープや食材が散らばっている机ばかりだ。
みな目の前の食事のみに集中して、
それ以外の物事には一切注意を向けない。
皿から口へ食べ物を運ぶ動作に真剣で
机を綺麗にして食べている余裕がないという敬意。
食べ物への敬意の表し方は、国によって違うのだと思った。
僕はそう思った。
火鍋のあと、シーシャに行った。
彼女のミニスカートからこぼれる太ももに見とれいてた。
すると、スマホの画面が視界に入った。
音声メッセージばかり。
おもしろい。彼氏とは生の声で語り合いたい。
中国のカップルは情熱的なのだろうか。
同時に少し寂しい。付き合えないよね。
彼女は耳にスピーカーを当てながら、目の前のシーシャには目もくれない。
音声を、ひたすら聴き、中国語でスマホに語りかけている。
誰となぜ音声メッセージでやり取りしているのか聞いてみた。
相手はお母さんらしい。
彼女のお母さんは中国語を話す事ができるけど読み書きする事ができない。
だから音声でのやり取りをしていると。
「お母さんは心配性だから」と微笑む。
ブランケットを借りて、彼女の太ももを暖めることにした。
彼女の両親は日本で中華料理屋を営んでいる。
彼女は10歳で日本に来て、最初の何年かは日本語が読めないので、
テストの時、徳川家康という単語を文字としてではなく絵として暗記したらしい。
僕がベトナムの文字をそう見るように。
頭は全然良くなくてバカな高校に入ったと言っていた。
彼女は中国語と日本語が話せる。
つい最近まで通訳の仕事をしていた。
先輩は28歳で2000万円の貯金がある。
イタリアにはまだ行かない。
僕は26歳で間もなく無職になる。
彼女は25歳で夜はガールズバー、昼はコンパニオンと
仕事を兼任している。大学にも通いだした。
先輩は、後輩の指導により一層勢いを強める。
案件を引き継げるようにしたいらしい。
僕は26歳で間もなく無職になる。
彼女は25歳で、お店で1番人気だ。
先輩は28歳で自分はお荷物社員だと、自分で言っていた。
僕は26歳で間もなく無職になる。
僕の親は14歳からひとりになった。
僕は26歳で旅に出ようと思っている。
何でも見てやろうと思った。