推薦ホラー『おとうさんがいっぱい』

 はじめての文章は自己紹介がいいと言われても、人様に誇れるようなものは何一つ無いもんだから、好きなホラー小説を勧めることにする。

 対面で話すときホラーというジャンル程勧めづらいものはない。普通に怪談を話すよりも空気が凍りついて、何だこのヤバサブカル野郎という目をされる事必至である。そもそも怖いのは嫌って人が多いもんだから仕方ない話ではあるけどね、そんな人でも『おとうさんがいっぱい』なら読めるはずだ。

 この本が表現しているのは「子供が感じる最大限の」恐怖。note見てるような人ってのは多分、既に大人かサブカル気質の学生だろうからそんなに怖い思いはしないだろう。   ただ、小さい頃に読んだらヤバい本だと確信するに違いない。親がクリーチャーになる、親に自分の言うことを信じてもらえない、親なんて信用ならないと悟ってしまう⋯。ユーモラスな絵で中和し切れない、対象年齢にぶつけるにはあまりに酷な展開が待っている。めでたしで終わる話はないが、それが許されるのもホラーの醍醐味。一応『かべは知っている』の後味は妙にすっきりするが、読後感がルパン三世のそれである。あのラストはハードボイルドすぎる。

 私は小学生の頃、現実(劣悪な家庭環境、学校でのいじめ、何より助けてくれる人がいないこと)よりずっと恐ろしいものを探して図書室の怖いものが書かれていそうな本を読み漁っていたが、この本だけは現実と地続きの恐怖を語っていたように思う。いつか必ず感じる絶望への予習になるからこそ、この本の対象年齢は低いのだと思う。

 我々が子供の頃感じていた普通は、こちら側には分からないうちに、呆気なく崩壊する。大人になった今では、当たり前の日常を保つ苦労を実感する。大した事じゃなくても、実家に常備されていた調味料がやけに高いことに驚くとか、そんな些細な事でもいい。誰かの努力の跡は思い出の中に必ず存在する。

 ここまで読んでくれてありがとう。大層な感じになってしまったけど児童書なんだから気楽に読めばいいよ、こんなの個人の感想なんだから。もし興味を持ってくれたなら、図書館行くとかして読んでくれたらとても嬉しい。みんなはどの話が一番嫌だった?


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