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23漬物・2(発酵の不思議)

上記画像は京都市北区上賀茂の冬の風物である、すぐき漬の天秤押しの光景である。近頃、めっきりこの方法で作業するのが少なくなったが、少数ながらもこの方式で、強圧をかけて原料を脱水をしている生産農家が有る。4斗樽がほぼ一杯になるまで原料を上に重ねて強圧するを繰り返し、ほぼ満杯で60kg程。次の工程は樽ごと、発酵を促す為に重石を乗せたまま加温を行う。この時の管理温度と日数は各生産農家で異なり、その違いは、それぞれ各生産農家毎の風味を醸し出す要因でもある。本来、すぐき漬は11月から12月上旬には漬け込みを終了し、そのまま加温せずに発酵をさせて、5月中旬の葵祭の頃に食されていた漬物であったとも聞く。(←現在も、すぐき時候漬と言う別名称でその製品は存在する。)それを、年末の寒い時期に贈答用や迎春用として販売できるようにはならないかと考えたのが、現在の製造方法である加温する方法である。
今回は、漬物の製造現場や他の発酵食品の製造現場を訪ねて、不思議に感じた事と経験した事を記述していこうかと思うので、軽い気持ちで読み進めてもらうと幸いである。

《発酵開始のスターターは何所から来る?》
一般的な記述では、原料野菜に付いている菌が発酵を開始すると言われているが、私は異論を唱える。新しい樽、新しい重石、新しい場所で発酵漬物を作ろうとした場合、以前の様な風味を醸し出せないのが常に確認できる事である。私の経験として、ぬか漬を漬ける場所と容器が変わると風味の維持が難しい。近い例として、以前記述した友人の京都市左京区大原のしば漬製造事業者は、天然発酵で酸味の強いしば漬を昔ながらの技法で製造しているが、彼が新しい工場を建設して製造を試みたが、全く良い商品の完成をみる事が出来なかった。製造技法に間違いが有ったのかを疑い続けていたが、以前と変わった製造環境が原因なのではと、その新工場で漬けた樽を旧工場に置いてみたところ、以前同様の製品に仕上がった。ここで言える事は、菌が旧工場に住んでいるのである。で、彼は重石だけを旧工場で使用していたものにして新工場で製造をしてみた。結果は、上々。彼の場合、重石は天然石を重ねて使用したらしい。重石に多くの発酵を促す菌が住んでいる事に着目した彼も素晴らしいが、その発酵を促す菌が石に宿っている事がすごいと思う。乳酸菌で有るかどうかは不知であるが、赤紫蘇が発色する条件として、phの低下が影響しているので、乳酸菌が乳酸を創出して酸度を下げているという事が予想できると言えよう。その後、菌の引っ越しが済んだのであろう、同様の製品を作る事が継続している。
即ち、原料本来が持つ菌は別の菌かもしれない。発酵を促す菌はそこらじゅうに住んでいて、好適な条件が揃った場所に取り付き活性して、乳酸を創出するというのが理にかなう説明であろうかと思う。

白菜浅漬をより一層強圧脱水して、すぐき漬で使用した樽・重石蓋・重石を使い、
すぐき漬と一緒に加温して発酵促進をさせてみた。
すぐき漬と同じような抜群の酸味を得て、生姜醤油で食すと満足評価をしたのであるが、
マニアックすぎるのと、白菜浅漬と比べて生産性が悪く高価になり過ぎた。
商品名【室仕込み白菜】

《蔵住みの菌》
以前、滋賀県多賀大社近くの醤油製造事業者を訪ねた事が有る。漬物に掛け醤油としてが美味しいと聞いて購入に訪れた。すごい工場であつた。壁一面、かび?埃?とにかく、綿屑のようなものが積もっていた。工場の周りは醤油の臭いが立ち込め公害に近い。又、こんな事もあったが、徳島市内から池田方面へしばらく向かうと地域消費メインの田舎味噌の工場がある。その工場を訪ねた時の事、この工場内は灯りが無く入口の明かりだけで中は真っ暗。しかし、味噌の香りで苦しく、咳込むほど埃っぽいのである。高価であったがその味噌の味は忘れられないものであった。最近廃業したとも聞いたが、再訪したい味噌蔵である。
例として、2例を述べたが、どちらの事業者も蔵住みの菌を大切にしているには違いが無い。その菌が自製品の風味を決定しているからだ。
酒・酢・味醂・味噌・漬物等・・・・、発酵菌の力を借りて食生活を良好に援助しているモノの力は偉大で不思議である。昔人は、経験則からその有益性を理解をして、多くは語らず自身の技術として当り前で利用をしてきたと推測できる。

今回は短いが、記述はここまで。
発酵に付いての補足的記述をしました。

発酵を語ると語りつくせないほどの話題が有るのですが、
本当に切りが無い。小出しにチマチマ、度々、記述していくつもりです。

ではまた。次回。

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