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【ショートショート】絆の鐘

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

ムラタは、町の役場で働くただの事務員だが、彼の心の奥底には大きな野望があった。

町の人々から尊敬され、ヒーローとして名を刻むこと。

しかし、その夢はこれまでことごとく挫折してきた。

彼の提案はいつも斬新だが、現実味に欠け、最終的には住民たちから冷笑される結果に終わっていた。


「今度こそ…」

ムラタは内心で誓いを立てた。

そんなある日、彼は町の古びた倉庫で見つけた埃まみれの書物に、運命的な導きを感じたのだ。

書物には、「古の鐘を鳴らせば、町は繁栄し、人々は一つに結ばれる」と書かれていた。

ムラタはこれを読んだ瞬間、心の中で歓喜した。

「これだ…これこそが俺の成功への道だ!」


ムラタは、倉庫の奥で見つけた巨大な鐘が、まさにその伝説の鐘だと信じ込み、これを町の中心に設置することを決意した。

彼は過去の失敗を払拭するため、この伝説にすべてを賭ける覚悟を決めたのだ。


「この鐘を鳴らせば、町のみんなが一つになれる!」

ムラタは住民たちに提案したが、彼の声にはこれまでにない自信があった。

住民たちは過去の経験から警戒しつつも、その強い熱意に押されて広場に集まった。


広場の中央には、巨大な鐘がそびえ立っていた。

ムラタは「これで町の対立は終わる」と自らに言い聞かせるように呟いた。

彼は自信満々で鐘の前に立ち
「この鐘を鳴らせば、我々は新たな絆で結ばれる!」と宣言した。


鐘を鳴らす直前、ムラタは一瞬、過去の失敗が頭をよぎった。

しかし、すぐにその不安を振り払う。

「今度こそ成功する!」

彼は心を決め、鐘を力いっぱい鳴らした。

「ガンッ!」
という重低音が町中に響き渡った瞬間、ムラタは勝利を確信していた。


だが、その直後、住民たちは異変に気づいた。

家のドアがロックされ、開かなくなっていたのだ。

「何だこれは!」
と驚いた住民たちは、ドアノブを回してみたが、どのドアもびくともしない。

ムラタは、かつての書物に書かれていた
「町を閉ざす鐘」の一節を思い出したが、もう遅かった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、こんなはずじゃ…」

ムラタは顔が青ざめ、住民たちの怒りの視線が自分に集中しているのを感じた。

彼は次第に恐怖を覚え、事態が思わぬ方向に進んでいることを理解した。


「これじゃ家に戻れないじゃないか!」
と住民たちは口々に叫び始め、ムラタに対する不満が爆発した。

「ムラタ、どうにかしろ!」
という怒声が飛び交い、彼はどうすることもできずに立ちすくんでいた。


そしてその時、ムラタはある皮肉な事実に気づいた。

住民たちは、自分への怒りで一つになっていたのだ。

彼の計画は成功した…が、それはまったく望んでいた形ではなかった。


「これじゃ俺だけ絆を結べないよ…」

ムラタは天を仰ぎ、呆然とつぶやいた。

彼の夢は音を立てて崩れ去ったが、住民たちは確かに一つになっていた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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