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【ショートショート】ストレスの特効薬

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

「ストレスを消す薬だ。君ならどうする?」
社長の言葉にカワムラは笑うしかなかった。

テーブルに置かれた透明なカプセル。
中で青い液体が揺れている。
それは、まるで小さな惑星が閉じ込められたようだった。

「冗談ですよね?」
「いや、本気だ。飲むかどうかは君に任せる」


夜、自宅のソファでカプセルをじっと見つめていた。

カワムラは日々のストレスに押しつぶされそうになっていた。

  • 上司の容赦ない叱責。

  • 締め切りに追われる日々。

  • 消えない肩こりと頭痛。

「もし、これが本当に効くのなら……」

考える時間は必要なかった。
彼は薬を飲み込んだ。


翌日、世界は変わった。

  • 朝、目覚ましが鳴る直前に目が覚めた。

  • コーヒーは完璧な濃さと温度。

  • 通勤電車で隣に人は座らず、目的地までスムーズに到着。

「これが幸せってやつか」

会社でも、上司の叱責は消え、部下たちの仕事も完璧だった。
すべてが自分の思い通りに動いている――。
ストレスはどこにもない。


だが、三日目。

カワムラは違和感を抱き始めた。

  • 雨の中で濡れている猫を見つけた瞬間、猫がいなくなった。

  • 隣のデスクの同僚が「助けてくれ」と呟いたが、その声すら聞こえなくなった。

  • 誰も失敗しない世界は、何も起こらない世界だ。

「何も……感じない」
カワムラは窓の外をぼんやりと見つめた。
完璧な景色。
曇り一つない青空。
それが息苦しく感じた。


その夜、彼は薬をゴミ箱に投げ捨てた。

翌日、雨が降った。

朝の通勤電車は遅延し、上司の叱責が飛んだ。
だが、失敗した部下と笑い合いながら資料を作り直している自分に気づく。

「……これが人生か」

彼は会社の廊下でふと立ち止まり、笑った。
ストレスは人生そのもの――完全に消せるものじゃない。

その後、彼は噂で聞いた。
「あの薬、新しい名前で販売されているらしい。『人生の欠片』って名前だって」
誰かが買うかもしれない。
だが、自分にはもう必要ない。


最後まで読んで頂きありがとうございました。


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佐藤直哉(Naoya sato-)
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