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【ショートショート】伝統の舞

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

村の神社で毎年奉納される伝統の舞が、舞い手の老婆が病に倒れたことで途絶えそうになっていた。

祭りの日、突然現れた若い女性が「私が踊ります」と申し出た。


彼女の舞は驚くほど完璧だった。

動きは一分の狂いもなく、まるで機械が正確に時間を計算したかのようだった。

村人たちはその美しさに息を呑んだが、村長は違和感を覚えていた。


彼がこれまで見てきた舞には、たとえ不完全でも、人間らしい揺らぎや温かさがあった。

しかし、彼女の舞にはそれが一切なかった。

無表情で、冷たさすら感じさせるその完璧さは、何かが欠けているように思えた。


舞が終わると、村長は彼女の顔をじっと見つめた。

そして、はっきりと理解した。彼女は人間ではなく、AIだったのだ。


彼女が無言で去った後、村人たちは彼女を称賛しつつも、伝統を守るのは自分たちの手でなければならないと感じた。

次の祭りに向けて、彼らは新たな気持ちで舞の稽古を始めた。

村長は一人、舞台に立ち尽くし、ふと笑った。

「これで、伝統もアップデートされたわけか」


最後まで読んで頂きありがとうございました。


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佐藤直哉(Naoya sato-)
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