まねかつお? まながつお?
「今日の焼き物はなんですか?」
「マナガツオだよ」
まながつおという名前を聞いた時は迷わずにカツオだろうと思っていたが、
私が働いていた寿司屋の大将が捌いている魚を見て思わず目を疑った。
マンボウなのだ。大将はまんぼうを捌いている。
「もしかして、それがまながつおですか?」
「そうだよ」
まながつおは私が働いていた店では、粕漬けにして提供していた。
まながつおはどうやら高級魚らしい。
まんぼうのような丸い形状をしてい口はおちょぼぐちのように小さい。
寿司屋で大将がまなかつおですとお客さんに言って出すのを見ていると、大半のお客さんが鰹?といった感じで目を見開いて驚いた反応をしている。
そしてスマホでまながつおを調べてこれがカツオかと笑いながら突っ込んでいる様子は微笑ましい。やはり、みんな同じ道を辿るのだと。
初めてまながつおとご対面してから二ヶ月後、豊洲市場に行くようになり、売り場でまながつおを見かける。
まながつおはどうやら捌くのがとても難しいらしい。骨が柔らかいので包丁を入れても骨に当たる感覚があまりないらしい。
私は是が非でもまながつおを捌きたいと思うようになっていた。
まながつおは基本的に瀬戸内海で取れる魚らしい。関東圏よりも、関西圏で消費されることが多いらしく、豊洲にもそこまで出回らないらないと。
市場の魚屋で売っているところをようやく見つけると、早速値段と産地を聞く。キロ四千円で佐賀県産。1.35kgくらいで一匹7000円で購入した。まながつおは銀色の鱗に覆われているのだが、とても剥がれやすく、網で他の魚種と纏めて取ってしまうとほとんど剥がれ落ちてしまうのだそうだ。 銀色の鱗が残っているものほど質がよく、高値で取引されるという。
早速持ち帰り、捌いてみる。どうやらまながつおは魚の中でも特に骨が柔らかいらしい。内臓をとって、頭を落として頭のデコ付近に包丁を入れると、茄子を切るくらいの力加減であっさりときれてしまった。魚の頭といえば出刃包丁でゴリゴリ切っていく感じのイメージであったので、なかなかの驚きっであった茄子を乱切りする感覚で切ることができる。
身の方をさばいてみる。身が薄いので、出歯では難しそうだったので、柳刀で切ることにした。確かに骨の感覚は他の魚に比べて全然ない。いくつか骨の下にいくことがあったが、なんとか3枚に下ろした。下ろしている最中に身を触ると脂のノリがすごく鮮度もとても良い。真魚鰹は鮮度の落ちが早いために、西京焼きや焼き魚で食べるのが関東では主流だそうだが、試しにしぶいちは刺身、握りで食べてみることにした。
食べたことのない食感と味だった。白身なので、味の括りとしてはたいやひらめなどと同じ系統かもしれないが、全然違う。カワハギが一番近い感じがす流。でも、マグロのような身がしっかりしているし、あぶらのノリがよく、上品な味わいだ。
そして握りにして食べる。めちゃくちゃ美味しい。なぜ、こんなに美味しいのに、握りで寿司屋は出さないのだろう。
半身は買ってきた西京味噌、味醂、酒を混ぜ合わせたものに2日間つけて置いておく。
二日後に火を入れて早速食べてみる。その日は味噌汁とご飯、まながつおの西京焼きという献立でいただいた。
食べた瞬間、衝撃が走った。
全く魚の臭みがなく、さっぱりとした味わいなのだが、変なクセが全くない。鱈の西京焼きとは訳が違う。味噌汁とご飯を用意していたのだが、味が上品すぎて、ご飯のおかずに微塵にもならなかった。まながつおの西京焼きが合うのは日本酒しかない。こんなに繊細な味わいを持つ魚がいるものかと。
まなかつおはすぐさまに私のお気に入りの魚に入れられた。
真魚鰹の分類としては、硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区棘鰭上目スズキ系スズキ目イボダイ亜目マナガツオ科マナガツオ属ととても長く、一つ言えるのは分類が難しい魚だと言うことだろう。
ではなぜ真魚鰹は白身魚で全く鰹と異なる魚種であるにも関わらず、鰹が名前につけられたのだろうか。
これに関しては諸説あるのだが一番有力なのが江戸時代で人気ナンバーワンの魚が鰹で、瀬戸内海ではカツオは採れないが、鰹の代わりに、美味しい真魚鰹が瀬戸内では取れるので「真似鰹」→ 「まなかつお」というふうに名付けられたそうだ。
四国、近畿では高知、和歌山という鰹の名産地があり、同じ四国や近畿で近い香川県や大阪、京都の人がが鰹の代わりに好んで食べていたのだろう。
まなかつおは産卵期の初夏から夏にかけて栄養を溜め込んだ時期のまなかつおが一番美味しいとされているが、
下京は雪となりたる鯧(まなかつお)
という句があり、まながつおは元々冬の季語であり、12月に豊洲に行くと、夏よりも大きさは小さいが、売っている箇所は多かった。瀬戸内海の漁師さんのところに訪れてまながつおについて尋ねると、夏に一番取れるという話だったので、謎は深まる。
調べると、なんとまなかつおは中国の山東省でもよく食べられるらしく、「鯧魚魚」と呼ばれ、骨ごと煮て食べるのだという。
まながつおは、波の穏やかな瀬戸内海という海だからこそ、育まれる魚であると自分でさばいて食べて実感した。
荒波の中でこんなに上品で繊細な味わいを持つ魚は育たないだろうと。
骨も軟弱であるし、鱗も少ないし、太平洋に行ったら体がもたないような気がする。(笑)
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