赤ひげ(ドクター)つれづれ草⑨ ~在宅ホスピスってなに?~ 亀井 克典
新年あけましておめでとうございます。今年は皆様にとって良い年になりますよう心より祈念しております。
昨年末からインフルエンザ感染が爆発的流行となりました。新型コロナ流行期にはインフルエンザはほとんど見られませんでしたが、今冬はA型インフルエンザが圧倒的な流行で、新型コロナはちらほらです。ウイルス感染症は優勢なウイルスが流行のマウントをとるということのようです。これに細菌感染症のマイコプラズマ肺炎も加わって、臨床現場は混乱しています。
~2人に一人ががんになる時代~
日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性62.1%、女性48.9%(2020年)。日本人ががんで死亡する確率は男性25.1%、女性17.5%(2022年)となっています。日本人の主要な死因の第1位は1980年代よりがんとなり、以後増え続けています。
~どこで人生の最期を迎えたいのか~
2020.11日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査」によると、「あなたは死期が迫っているとわかったときに、人生の最期をどこで迎えたいですか?」という質問では自宅が58.8%、医療施設33.9%、介護施設4.1%という回答になっています。実際は2019年のデータでは亡くなる場所は病院71.2%、自宅13.6%となっています。このうち自宅死の中には不慮の死亡、孤独死で死体検案となったケースが含まれていますので、「畳の上で大往生」というのは10人に一人いるかどうかです。一方で名古屋でも医療・介護度の高い高齢者やがん末期患者を引き受ける有料老人ホームが激増していますが、有料老人ホームで亡くなる方は8.6%と急増しています。
~在宅ホスピスケアとは~
在宅ホスピスケアの定義は「患者の生活の場である「すまい」において実施されるホスピスケアのことをいう。「すまい」は、患者や家族が最も安らげる場であり、自分達の意思を最大限実現できる場所である。したがって、在宅ホスピスケアは、最期の日々を「すまい」で過ごしたいと願う患者や家族を支援して、その希望を叶えるためのケアである」(日本在宅ホスピス協会HP)とされています。
1983~4年、私は千葉県の房総半島の東側にある国保旭中央病院で内科の臨床研修をしていました。その時隣町の町立病院で消化器外科医長をされていたのが山崎章郎(ふみお)先生です。私より10歳年上で当時30歳代後半の中堅消化器外科医でした。彼は消化器がんの手術に精力的に取り組みながら、治癒に至らず再発した患者が痛みなどの症状に苦しみながら再入院してくる状況に心を痛めていました。当時緩和ケアの概念も確立しておらず、痛みを和らげる麻薬もモルヒネの粉末製剤しかなく、訪問診療や訪問看護の仕組みも在宅酸素療法も始まっていないという時代でした
彼は自分が手術し、再発したがん患者さんのところに、手術や病棟業務が終わったあと夜になってから一人でボランティア往診をしておられました。がん緩和ケアをテーマにした院内多職種勉強会を毎月定期的に開催されており、当時がん末期入院患者さんを受け持ち、症状緩和に悩んでいた私はそのことを聞きつけ、山崎先生にご連絡し承諾を得て参加させていただきました。
彼は院内外の看護師、薬剤師などの多職種にカンファレンスに参加してもらい、フラットに語り合っていました。また一番驚いたのは、彼が主治医として看取った末期がんの患者さんの家族の方に来ていただいて、体験談を聞くという試みもされていました。今では当たり前のように行われていることですが、40年前には非常に新鮮で心に残る光景でした。
山崎先生はその後緩和ケア医に転身され、聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科部長を経て、2005年に在宅ホスピスの拠点として、ケアタウン小平クリニックを開設されました。「在宅ホスピスという仕組み」(2018)という著作の前書きには次のように書かれています。
「多くの方々の最終章に同行して教えていただいたことは、「もし人が人生の最後を迎えるのであれば、もっと心の安らぐところ、多くの場合は住み慣れたところがベターである」ということであり、「より長く生きることもさることながら、最後まで自分らしく生きられるかどうか、すなわち尊厳をもって生きられる(死ぬことができる)かどうかが大切なのだ」ということであった。そしてまた、どのような状況であっても、その患者さんの尊厳を守ろうとする人々がいる限り、それを守ることは可能である、ということも教えていただいた」
私は約20年前名古屋に戻ってから、在宅緩和ケアに取り組む中で、「在宅ホスピスかわな」という仕組みの構築や地域の緩和ケア医療・介護連携に取り組んできました。次回はそのことについてお話しさせていただきます。