【映画】感想 仕掛人・藤枝梅安 最後の一滴まで酔わせる仕掛け。江戸ノアールに、今夜も酒がすすむ
まだ観てないからネタバレは読みたくない!と言う方にもひとつだけ、言っておきたいことがある。それは
映画が終わっても、明るくなるまで待って!
なぜか?
その理由は二つある。まず一つ目は、
危ないから!
ただでさえ中高年、もっと言うと、明るくても足元がふらつく高齢者も多い客層である。まだ暗い中で階段を降りるのは危険だし、忘れ物もしやすい。だからまず、席を立つのは明るくなってからにしていただきたい。
そして理由の二つ目。それは、
エンドルールがすべて終わった後にも、もう少しだけ、「おまけの映像」があるからだ。
それを見逃したとて、ストーリーが変わるわけではない。第一作のおまけを見ていなくても、第二作の冒頭でちゃんと回収できる。しかし、第二作のほうは、本編に酔いしれた観客に、さらなる「追い余韻」を与える贅沢な仕掛けだ。(仕掛人だけに)
ちなみに両作とも、エンドロールを注意して見ていれば、「これ、まだ何かあるな」ということに察しが付く。
なんならプログラムにも書いてある。(エンドロールが全部載っている)
が、老眼鏡をかけても読む意欲をくじかれそうなほど、そのページの文字は小さい。
なので、とにかく!明るくなるまで席を立たず、最後まで堪能されることをお勧めしたい。
というのが前段で、ここから先はネタバレも含めて私の感想をありのまま、自由に書きます。
切り口としてはなんとなく
色艶から温湿度まで、絶空調の江戸ノアール
先生と彦さんのあてなよる
恋は愛より出でで愛より尊し
梅安に告ぐ。16年目の伏線回収
あと、
早乙女太一(第一作ゲスト)の殺陣の凄さに、私の中のレジが鳴った
っいてうのもあるのですが、あまりに長くなったので【番外編】として分けました。
↓↓↓
https://note.com/lucky_borage315/n/n6636df379d37
あとでこちらも見てもらえるとうれしいです!
ってことでさっそく、
江戸ノアール
江戸むらさきではなく、江戸ノアール
じわる
どれくらいじわるかと言うと、かつてあった雑誌「NIKITA(ニキータ)」の『艶女(アデージョ)』くらいじわる。
ちなみに私の同僚は『艶女(アデージョ)』を「決まった瞬間、編集部で打ち上げに行ってそうなハマり感とドヤ感があるコピー」と言った。(※ニキータとアデージョを知らない方はWikipediaへGO!)
とにかく、そういう感じの、「江戸ノアール」
きっとこれも、制作陣でガッツポーズしてる、ような気がする。(知らんけど)
韓国ドラマ「ザ・グローリー~輝かしき復讐~」を観ていた時、『勧善懲悪ってあるでしょう、そういうことよ』みたいなセリフがあって、ちょっとギョッとなった。だってめちゃくちゃエグい復讐劇だったから。
でもストーリーが進むにつれて、なんとなく腹落ちするのを感じた。
加害者たちはえげつないほどの悪人で、日常に破綻が満ちている。
だからほんの少し後ろから押せば、勝手にドミノが倒れるように自滅していく。
そう、悪いのは、あいつらなんだ。懲らしめて、当然だ。
でもそんなシンプルなコントラストが、江戸ノアールには無い。
梅安先生は、いい人なの?悪い人なの?
お前がいい人なら先生もいい人だし、お前が悪い人なら、先生も悪い人かもしれないね。
私は先生を善人とは言い切れない。ならば私も悪人なのか?
どんなに晴れていても、サッと刷いたような青黒さをたたえた、冷たい空。
日を浴び、鱗片のように輝きながら、決して透きとおらない黒い川。
そんなアンビバレントな風景が、絶妙な色彩と温度感の表現で、画面の隅々まで冴えわたって美しい。いつか触ったことのあるような感触、嗅いだことのあるような匂いまでも思い出して、心が疼く。
そんな贅沢なテクスチャーに、物語のメッセージが凝縮されているように感じる。
なんなら湿度も調整されている、ように見える。
ひんやりしながらうるおっている感じ。
天海祐希が演じるおみの、菅野美穂が演じるおもん、
しっとりと艶があるが、オイリーなグロス感じゃない。
そして激しい情念や、他人に寄り添う温かさを持つのに、冷たく淋しい。
この質感が、おみのの凛とした凄味と、おもんの可憐さを際立たせている。
気温が低いのに湿度が高い環境、
これがリュウマチになりやすいのだと、以前、中国の四川省に行った時、地元の人が教えてくれた。
「だから、ワタシたちは汗を出すために、麻婆豆腐とか辛い物をよく食べるのですよ~」と。
だから梅安先生の鍼医院も繁昌するのだろうか?それはわからない。
梅安先生って結局、いい人なの?悪い人なの?
それはどっちも、だ。
とにかく贅沢な仕掛けに、ほろりと酔いしれる。
なんだかいいお酒が飲みたくなる。
飲みたくなる、といえば、
頻繁に登場する「食事シーン」はこの映画のかなり大きな魅力。
特に梅安先生みずからこしらえ、食すのは、シンプルだけど「これはこう食べるのがいちばん旨い」っていうツボをとらえた逸品、さすが鍼医者。さすが分とく山監修。
食べている時だけ、血の通った人間であることを思い出すのだろうか、いつくしむように料理し、食す。これが最後の食事になるかも知れないから、ひと手間も惜しまない。まるで仕掛けの針を研ぐように、手ごたえを確かめる。
粗いかつおぶしを乗せたお粥、あつあつの湯豆腐、お醤油が煮詰まったハゼのすき鍋。
特に第二作のクライマックス直前、刺客の奇襲を予感しながら梅安先生が摂る昼餉、それは卵かけごはん!TKG!そして屋根裏に潜む「彦さん」こと、片岡愛之助演じる彦次郎が開くのは、ふっくらとした塩むすび!
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バディ・彦さんと語らう晩酌シーンはどこかホッとするものがある。そのうち愛之助さんがどことなく、「ソムリエ界の若さま」こと若林英司氏に見えてきて、これは梅安先生と彦さんの「あてなよる」なの?
ペアリングはぬる燗一択だけど、最高のマリアージュだなぁと思った。
あぁ、私も美味しいお酒、グッとやりたいなぁ。
そして、お酒以上にグッと来たのは、菅野美穂演じるおもんのこと。
第一作で、梅安先生のおかげで格のある料理屋に転職したおもん。以降、第二作では平穏な日々を過ごしているが、逢えない梅安先生への恋しさは募る毎日。
そんなある日、勤め先の料理屋に、佐藤浩市演じる浪人、実は仕掛人の井上半十郎が訪ねて来る。
彼は、かつて妻を殺したのは梅安だと察していた。堅気の侍から転落し、仕掛人として生きながら、復讐する機会をずっと待っていた。
梅安という医者がよく来るね?あんたはヤツと関わりがあるか?
ちょっとやばそうな客、不穏な空気。
身の安全を考えれば、知らないと嘘をついて、適当にあしらえばいい。
でも、梅安先生のことで、嘘をついちゃいけない気がする。誰に対する誠意だろう?
目の前の男なのか?それとも梅安先生に対してか?
それに、そんな些細な会話にも、梅安先生のことを口にできるのが嬉しいような気がする。その気配を佐藤浩市(じゃなくて井上半十郎)は敏感に感じ取る。
あんた、ヤツに惚れてるんだろう、あんな男のどこがいいんだ言ってみろ!(※っていうセリフだったかどうか覚えてないけど内容はそういう感じ)
誰に対して言っているのか?目の前のおもんか?それとも死んだ妻か?
いくら参勤の長期不在で淋しかったからと言っても、妻は何であんな男を求めたのだ。そしてなぜあの男に自分を「殺して」と頼んだのだ。
膳を飛ばしておもんに掴みかかる佐藤浩市(じゃなくて井上半十郎)がめちゃくちゃ怖い。目が怖い。
やたらと大きな黒目が空っぽで、どこを見てるんだか分からないのが怖い。
でも、おもんは恐怖に喉を引きつらせながら、はっきりとこう言った。
あの人を好いているということが、私の慰めになるのです。
泣いた。
「恋」と「愛」の違いとして、前者のほうは自分本位、後者は利他的、みたいに、よく「愛」の尊さに比重を置いて語られることが多いと思う。でも、おもんの梅安先生への想いは完全に「恋」で、その恋心も完全に自分本位だけど、だからこそ、愛以上の無償の想いに貫かれている、と思った。愛よりも尊い恋を見た気がした。
ここのおもんに心を鷲掴まれて、泣けた。
この言葉は佐藤浩市(じゃなくて井上半十郎)にとってはとどめだったと思う。もうここで、彼は半分死んだのだ、と思った。
人間は、よいことをしながら悪いことをし、悪いことをしながらよいことをしている(池波正太郎のことば)
このメッセージが全編にわたって貫かれていて、切なさをひしひしと感じた映画だったなぁ・・・
・・・と、それで終わっても良かったけど、エンドロール後の映像で私はまたひとつ、ブチ上がった。
行きつけの料理屋・井筒屋に向かう梅安先生。
すると、店から客が出て来る。
先生の目の前で、店の主人から呼び止められ、忘れ物を渡されるその客は!なんと!誰だ!
長谷川平蔵!鬼平キタ――(゚∀゚)――!!
なんと、松本幸四郎演じる鬼平犯科帳の長谷川平蔵なのだ。
この新・鬼平の姿をいち早く見られるなんて、みなさん!お得じゃありませんこと?
・・・なぁんて言っている場合ではない。
あの鬼平が、大事な父の形見を、料理屋に忘れて行こうとするだろうか・・・?
これってもう、完全なる「梅安、オレはオマエを見定めたぜ!」フラグにほかならない!と思うのは、私だけだろうか?
爽やかに去って行く長谷川平蔵の後ろ姿を、不審な目で見送りながらたたずむ梅安先生こと、豊川悦司。ずっとカッコ良かったけど、この時の立ち姿が、もうかっこいいの総決算。
そしてそこで思い出すのは、2007年の、映画「犯人に告ぐ」で、『犯人に告ぐ。今夜は、震えて眠れ』と言った刑事こそ、豊川悦司だったではないか!これってまさに鬼平から梅安先生への
「梅安に告ぐ。今夜は、震えて眠れ」ではないか!!!
しびれるーーー――(゚∀゚)――!!
16年目の伏線回収―――
鬼平の怖さは、梅安とはまた別物だ。
時には元盗賊も、そのいきさつや改心次第では「犬」として活かす、まさに清濁併せ呑む器を持つ長谷川平蔵だが、「悪」は絶対に許さない。
執念深く、許さない。
このふたりの世界、美学は違うのだ。
そんなものを見てしまったら、今夜はしっとりとした気分でお酒でも・・・なんて言っていられなくなった。
とりあえず肉だ!肉!いや、酒も飲むけど!
そんな興奮と余韻に包まれた、仕掛人・藤枝梅安でした!
あー続きが見たいなっ
長くなってしまいましたが、お読みくださり有難うございました!
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