ちこちゃん

短編、長編問わず、小説を書いてます。以前は、ドラマの脚本を執筆していました。青春モノ、事件モノ、時代劇と幅広いジャンルでお仕事していました。現在は、人間のやさしさと残酷の両面を描いていきたいと思ってます。卵料理が好き。ただいま、この夏用のワンピースを探しています。趣味、イラスト。

ちこちゃん

短編、長編問わず、小説を書いてます。以前は、ドラマの脚本を執筆していました。青春モノ、事件モノ、時代劇と幅広いジャンルでお仕事していました。現在は、人間のやさしさと残酷の両面を描いていきたいと思ってます。卵料理が好き。ただいま、この夏用のワンピースを探しています。趣味、イラスト。

最近の記事

「達人には遠くて。CDデビュー?!」

(前回より)わたしは制作会社を出て、六本木に向かう通りを歩いた。バス停に辿りつく前に、涙がぽろぽろこぼれた。  ちなみにこの時のドラマのタイトルは「わたしは泣かない」だった。 第二回「達人には遠くて」 一週間後、わたしは台本を全直しして、提出した。六十枚×五日分を丸々書き直したのだ。次の打ち合わせはさくさくっと進んだ。いくつかの改定は求められたが、ケガは軽かった。Yプロデューサーは「ガッツがありますね」と云って下さった。Oさんは「若さってすごいわね」とニコニコ笑って下さっ

    • すべって転んで、五十年、五十カラットの輝き

       19歳で脚本家デビューをして、今年で丸五十年になる。恐るべき数字だ。 本当に様々の脚本を書いて来た。けれど、有名ライターかと訊かれたら「いいえ」と答える。視聴者が知っているのは、大石静さんとか、くどかんさんとか、三谷幸喜さんだ。彼らは「超」のつく有名脚本家さんだ。野球選手もそうだろうが、九人のレギュラーに合わせて、ベンチ入りの選手、他に二軍の選手と、野球界には顔の知られていない多くの選手がいる。それと同じだと思って欲しい。わたしは時々、ピンチヒッターで打席に立つ選手くらい。

      • ちこちゃんのぐずぐず日記

        今日は特別にぐずぐずしてしまった。珍しく朝早く 起きられたのに、朝食を食べたあと、ソファで横になり うたた寝しながら、本を読んでたら、気持ちがすっかり 「さぼりの日」風になってしまった。しゃんとしなきゃ と、買って来たチキンナゲットを食べたけど、余計に だらだらしてしまった。もう、夕方で、今日を取り返す には、あと少ししかない。気の晴れる本を読むことに する。「無垢の時代・イーディス・ウォートン(ビュー リッツァー賞受賞)」「ひねもすのたり日記・ちばてつ や」よし、いい日にな

        • ちこちゃんのぐずぐず日記。

          月に一回、エッセイを書いている。月に一回だから、 書けている気がする。内容は、身辺雑記と記憶に残っている旅の記憶などだ。ここには、見た映画やドラマや読んだ本についての感想を書こうと思う。もし、何かを見たり、読んだりして、感動した作品があれば、ぜひ、教えてください。

          「楽園の庭」第七話(最終話)

          「オレは今年はもう、現場にゃ出ない。経営者オンリーで行く。後は吉野に任せた。半分、引退だ」  ざわめきが起きた。何でだ? 「笛子に勝ったじゃねぇかよお」  三治さんが戸惑ったように言った。思いは皆、同じだった。 「新米相手に勝ったくらいでやれてるたぁ思わねぇよ。足腰にガタが来てるのは、自分が一番よく承知している。潮時だ」 「じぃじは引っ込んだ方がいいのよ」  と、奥さんが笑わせた。 「そういうことだ。今年は例年以上に、収益を重視するから、お前らもそのつもりでいろ

          「楽園の庭」第七話(最終話)

          「楽園の庭」第六話

          親方の家のリビングのソファで、オレと笛子は、奥さんが出してくれた紅茶を前に緊張気味に座っていた。和室では親方とオイさんが話している。内容は無論、オレたちには判らない。手持ち無沙汰なオレたちに、奥さんがしみじみ話しかけた。 「ホントによく帰って来てくれたわ。笛子ちゃんに辞められたら、わたし、ショックで眠れなくなりそうだった」  奥さんは今日、これで三回、同じことを言っている。 深夜バスで笛子と二人、高山を出て早朝の新宿に戻った。それからそれぞれの部屋でわずかな仮眠を取って

          「楽園の庭」第六話

          「楽園の庭」第五話

          翠堂さんの教室には、真っ赤に紅葉した楓の大きな枝が横たわっていた。今日の翠堂さんはダメージジーンズに袖を断ち切ったTシャツと言う軽装だ。 「これ終わるまで、ちょっと待ってて」  翠堂さんは枝に跨ると、腰を落として鋸を引き始めた。腕は細いが力は強そうだ。ガシガシと枝を落とす姿は、植木屋顔負けの手際のよさだ。 「吉祥寺のホテルのロビーに飾る枝なのよ。こっちで下準備をして、今夜遅くにホテルに入って、夜中に生けるの。アシスタントが一人いてくれたら楽勝なんだけど、稼げてないから、

          「楽園の庭」第五話

          「楽園の庭」第四話

          事務所の裏手にある親方の住いのチャイムを、笛子は短気に鳴らした。体中から湯気が出るほど、腹を立てている。奥さんの声がした。笛子が親方と話したいと言うと「今、留守だけど、上がって」と玄関を開けてくれた。  親方の家のリビングは広い。二十畳近くある。ダイニングテーブルとどでかい応接セットがあり、雑多な生活道具の間に、奥さんが趣味で揃えたティーカップが並べられている。 「親方に何か用?」 「わたしを営業職にしようと、親方は考えてらっしゃるんでしょうか」  笛子の性急な問いか

          「楽園の庭」第四話

          「楽園の庭」第三話

          この日は事務所からトラックで三十分ほど走ったところにある浄蓮寺というかなり大きな寺院の庭の手入れが仕事だった。 境内の庭にツツジなどの玉ものが何十個と並んでいる。一日目はそのツツジ類の刈り込みが主な作業となる。この日も吉野さんはオレたち、二軍組の作業に参加していた。つまりはこの寺は「竹井造園」にとって、軽んじてはいけない現場なのだ。 刈り込みの手順は次の通り。まず、ザッと刈る。次に掛かり葉をふるい落とす。仕上げに飛びだした葉を刈る、だ。 「笛子、粗刈りして来い!」 オ

          「楽園の庭」第三話

          「楽園の庭」第二話

          笛子だけに用があるのなら、オレは………。すると、笛子がオレの腕をつかんで来た。 「一緒に行こう」  普段、強気な笛子がびびっていた。ま、当たり前だが。オレだって、オイさんと二人きりになったら緊張する。植木屋の上下関係は飛び切り厳しいから。 結局、笛子と二人で乗り込んで、そこから十分ほど走った。 着いたのは事務所に近い里山のふもとで、職人らが「はたけ」と呼んでいる植木畑だった。オレも当然、何度も来たことがある。広さおよそ四百~五百坪の敷地にイチイやツゲ、カエデ類、桜、松

          「楽園の庭」第二話

          「楽園の庭」第一話

          言っておくが、オレは決して粗暴な人間じゃない。人を怒鳴ることもあんまりない。他人と意見が対立したら、なるべく穏やかに筋道立てて自分の考えを相手に伝え、相手の言い分もきちんと聞いて、お互いに歩み寄って方向性を決めたいタイプだ。断じて、相手を罵倒したりはしたくない………。  なのに。 「てめぇ、何ウロウロしてんだ。出だしで躓くんじゃねぇ」 「だから、どうしたらいいか説明しなさいよっ」 「一々、説明されなくったってな。今日の仕事の段どり考えりゃ想像がつくだろうがっ」 「つか

          「楽園の庭」第一話

          1923年の夏に向けて

          マスクをしないで済む夏が来ようとしている。 この三年で、様々なことが変わった。 友人らと会えない日々が続き、「孤独」たるものをじわっと味わった。 人との会話の有難みを、しみじみ感じた。 ごく「普通」に人と会い、会話し、笑いあうことが、決して「普通」のことではなく、とても恵まれているのだと実感した。 一分一分が、友人らと過ごす一秒一秒が愛おしい。 そんなことを思いつつ、この夏、noteに参加する。 不特定多数の目に触れる文章を書くという経験に、 若干の不安と、たくさんの期待を抱

          1923年の夏に向けて