なぜ良いM&A案件が我が社には紹介されないのか?
「うちには売れ残りの案件しか来ないんだよ」
「みんなピントがずれた案件ばっかり持ってくるんだよ」
「良い案件は競合入札ばかり。でも高掴みしたくない」
「どうしたらよい案件がうちに集まるのか教えてほしい」
上記の声をよくいただく。
すでに、たくさんM&A(買収側)を行っている企業には、業界でも認知がなされており良質な案件がたくさん持ち込まれる。
一方、「これからM&Aをしかけていきたい企業」は苦戦しているケースが多い。
案件が来ないにはいくつか理由があると私は思う。
代表的なのは以下の3つ。
①そもそもM&Aをすることが認知されていない
②どのような案件が欲しいかがわからない
③フィードバックがもらえないので案件持ち込みをあきらめてしまう
中小~中堅企業の案件持ち込み基本はM&A仲介会社が多い。延べ数千人の営業マンが日々日本中を駆け回っているからだ。
仲介会社は仕事も粗く野蛮であり、投資銀行や銀行、4大ファームなどからしか提案を受けたくない、という方もいるかもしれない。
しかしながら、魅力的なM&A案件との出会いを増やすには、開拓力のあるM&A仲介会社を無視できない、と私は考える。
どんどんM&Aしていくには、仲介会社からも優先的に案件が紹介されるような仕組みづくりを行うことが重要である。
そこでM&A仲介会社から良質な案件を引き出すためにやるべきアクションを5つ紹介したい。
ビジュアルで投資方針を説明する
プロアクティブサーチを依頼する
検討から外れた場合は、理由を素早く、明確にフィードバックする
最初から手数料交渉をしない
個社別にシナジーを考える
ビジュアルで投資方針を説明する
ビジュアルといっても、オシャレな絵を描く必要はない。
上記は上場後、数多くのM&Aをして、時価総額を数倍に伸ばしているエフコード社のIR資料の一部抜粋である。
文章の羅列に過ぎない図であると思うが、これで良い。
方針が明確であればよいのだ。
このように言語化した資料をもとに、仲介各社にアプローチしていく必要がある。
上場M&A大手仲介4社はそれぞれ100名以上営業マンが在籍しているが、どこの会社も実態は「個人商店の集まり」に近い。
組織化はされているものの、「売り案件をどこにもっていくか」は自由であり、営業マン個人に大きく依存している。
そして、売り案件を抱える仲介マンは忙しい。
次なる案件のための仕込み・資料作成・進んでいるディール対応など、土日昼夜なく対応しなくてはならない。
買収実績もなく、知名度もなく、M&A方針もわからない会社に持っていこうという気にはならない。
というか情報が入らないので、そうした企業は存在さえ認知できない。
私が仲介をやっていた際に、買い手の方から100万回言われた言葉は、「色々検討したいから何でももってきてね」である。
もちろん、このような曖昧な方針の企業には積極的に提案しようという気になれなかった。
このような曖昧な企業には、仮に案件を提案しても、明確なフィードバックを得られることが少なく、反応も遅く、売主に迷惑をかける事も多い。
売り手オーナーの不安を和らげるために仲介マンは動く。
だから
「売り手に喜んでもらえる」
「一定以上の株価が期待できる」
「売手の心情に寄り添ってくれる」
「買うか買わないかの判断が早い」
「基準がはっきりしている」
企業に話をお持ちしたい。
一方、この条件を満たす買い手企業は少ない。
感覚的には、100社あると10社はいないと思う。
逆に満たす企業は、1年で3件も4件も買収に成功していく。M&Aに対する本気度・情熱が違うので、案件が集まるのだ。
仲介マンは、命がけで体力を削って、なんとか1件オーナー様から売却意向を預かる。その大変さたるや、これはやってみないとわからないと思う。
M&Aに限らず、どんな仕事も等しく大変だと思う。また私は全ての職業を経験したわけではない。
その極めて限定的な前提でいうと、私が経験した職種の中では、ダントツに大変な仕事だった。
またオーナーに深く感情移入する仕事である。
その方の想いを実現したい、と本気で願う。
だから、オーナーからの信頼が得られる。(のだと思う。)
当然ながら、仲介者として買い手企業にも、その熱量を求めてしまう。
もちろんM&Aを検討している買い手企業の熱量は高い。
一方、「準備への熱量」が高い企業はどれだけいるだろうか。
・M&A買収方針・基準を明確にする
・曖昧であれば経営陣に掛け合って明確化する
・わかりやすい説明資料を自社できちんと作成する
・自社にしかないM&Aの魅力を考える
・仲介会社にビジュアルで依頼する
・動きの良い営業マンを定期的にリテンションする
・案件紹介が来れば、素早く明確にフィードバックする
・検討が進めば、相手方のメリットも考え、言語化する
この動きを徹底している買い手企業は少ないと私は思う。
一方、「買収巧者」はこの基本動作を徹底している。
そして、この動作が徹底できていない企業とディールをしようとは残念ながら思わないのだ。売り手を守るためにも。
完全成功報酬で動いているからなおさらである。
月額報酬をいただいているならまだしも、基本動作が徹底できていない企業に貴重な売却案件を持ち込むメリットはない。
1つ目の条件として「ビジュアルで投資方針を説明する」を上げたのは、こうした理由からである。
口頭ではなく、組織として、きっちりと方針を言語化・可視化・資料化するというのがM&A実行の第一歩なのだ。
これができていくと、少しずつ状況は変わる。
M&A仲介会社のデータベースや「買い手フォルダ」にストックされていくからだ。その際にきちんと綺麗な資料にまとまっていると強い。
売り手さえグリップできてれば、買い手にはそう困らないのがこの業界である。また売り手オーナーの株価目線さえクリアしてしまえれば、必要以上に買い手企業にあたらなくてよいのもM&A仲介者の特権。
なので、ある意味では、不動産営業のような形で、案件を持っている営業マン・組織との地道なコネクションづくりが重要なのである。
この点は、泥臭い営業活動、ともいえるのではないだろうか。
・プロアクティブサーチを依頼する
といっても、それだけで案件がくるほど甘くない。上述したように担当者となんどもコンタクトして、顔を売っていくようなところも必要だ。
そのために有効なのがプロアクティブサーチという手法である。
プロアクティブサーチとは、仕掛け型のM&Aである。
買収対象企業をリストアップし、直接口説きに行く事を仲介会社と共に仕掛けていくものである。
仲介会社は売り案件獲得のきっかけとできるので、プロアクティブサーチを無料で受ける事が多い。
仲介会社に買収イメージを伝えると、それに即した形で、買収対象を各社が現実的な買収対象を50社~100社など抽出してくれる。
さらに営業マンが飛び込み+コールによって口説きにいってくれる。大変ありがたいサービスである。
一方、留意点は、リストの質が低い事が多い事である。
月額報酬をいただいて業界分析・商流を分析して買収対象を整理していく、コンサルティング会社とは仕事の進め方が異なる。
「成功報酬」で進むため、営業マン個人が片手間で夜なべをしてリストアップしていることが大半である。
また「買収してなんぼ」なので、戦略的に取り組むべき買収対象ではなく、「資本構成上売りやすい案件」を優先的にピックアップする事も多い。
そのため、本来的には、買い手側企業でしっかりと人員と時間をかけて買収対象をピックアップするのが望ましい。
次に、口説いてもらうための会社案内も作成が必要である。
商品案内用のパンフレットではだめだと私は思う。
M&A方針や会社のビジョン、売り手企業にどのようなメリットが提供できるかを明記すべきだ。
これは作成する立場からすると非常に面倒に違いない。
書面で残るものなので表現等も非常に気を遣う。
そんなことまでしなくても、良質な売り案件をたくさん持ってきてほしいのが買い手の立場ではないだろうか。
しかし、売り手の立場にたつと話は分かりやすい。
「会社を売却しませんか?」という提案は山ほどくる。
昨今は特に。激怒するオーナーもいるだろう。
アプローチはいずれも「高く売れますよ」の一本やりである。
一方、「あなたの会社をご指名でグループにお迎えしたい企業がある」というラブコールが来ると、少しは聞いてみよう、という気にならないだろうか。
これだけなら良くある。
しかし、大抵なアプローチに中身がない。
あの大企業〇〇社から、貴社をご指名でお迎えしたいと言っている
に過ぎない。
さらにそこから具体的なM&A方針や、自社と想定する具体的なシナジーを語られたら心が少し動く部分もあるのではないだろうか。
一方、こうした点を言語化している企業は少ない。
だからこそ他社との差別化になる。
日本電産(現ニデック)の永守会長は、買収したい企業に対して、毎年直接ラブレターを書くと聞く。手紙には「共に世界一になろう」と書かれている。10年でも15年でも、アプローチし続けてやっと形になる事もあるらしい。
これくらいの熱量があって初めて、売り手の気持ちは動くのだと私は思う。
また、学研をM&Aを活用してV字回復させた宮原氏は、高値を出せない分、熱意と誠意で売り手オーナーを口説いたと公言している。
買収金額を他社の2倍や3倍支払えるならば、このような泥臭いアプローチは
必要ないだろう。
しかし、もし、自社の知名度がまだ低く、買収実績も乏しく、金額も出せないというならば、M&A準備に対する努力は必要である。なぜならば準備こそ十分な差別化になるからだ。
話を「プロアクティブサーチ」に戻そう。
他にも利点はある。
たとえば、プロアクティブサーチを行うと、営業マンに、買い手の方針・魅力をインストールできる。
売り手を口説くための情報に、仲介マンは飢えている。
当たり前だが、「後継者いませんよね?」の切り口だけで、売り手オーナーが口説けるわけがない。
後継者がいない事実と戦いながらも、経営の在り方を模索するオーナー経営者は多い。後継者不在=売却というシンプルな話ではない。
必要なのは「ロマン」ではないかと私は思う。
「このような夢を実現したいから、一緒に手を組みませんか?」
「こんな社会課題を貴社とともに解決したい」
という志が重要だと強く感じる。
それは、営業マンを勇気づけるためでもある。
はっきいって、仲介マンも大変である。
今の競争環境で、成果を上げ続けるには1日17~20時間労働を週6~7日間はたらかないといけない仕事である。それも、顧客開拓は、飛び込みや、コールも行うので頭と汗を使う。
資料の収集も分析も、プレDDも必要である。
こうした知的作業に加えて、顧客開拓から交渉まで一人で全てやらないといけない。
「インセンティブを1億円もらっても嫌だ」辞めた人を何人も知っている。人はお金だけでは頑張れない生き物だと私は思う。
そこに、志や大義が必要なのだ。
M&A業界において、志を真剣に掲げる企業は強い。
志を掲げ、仲介マンや、売り手オーナーを口説き、そして買収後も真剣に志を追求していく姿勢が、人を惹きつける。
そして、次なる案件を集める。
これは人材募集においても言えるのではないだろうか。
プロアクティブサーチを仲介会社とともに動くと、この志を共有できるのだ。味方が生まれるのだ。
そうすると、〇〇さんが実現したい世界観に近づくと思うので、この案件はどうですか?という話も舞い込んでくる。
「あそこは高く買ってくれるらしい」という邪心ではなく、志やロマンで案件が集まると嬉しい。これが理想ではないだろうか。
仲介会社に、こうした理念・志を理解してくれている仲介会社や営業マンを一人ずつ増やす事を作るべきなのである。
結局は、営業活動なのではないだろうか。
地道な活動が華を開くのである。
本日は5つあるうちの2つのポイントを記載した。
ここまでで想定以上に長くなってしまったので、残りは後日記載したい。