『笑っていなけりゃ泣いてしまう』
この曲を流しながら見てくれたら良いかも。
浅田次郎先生が、エッセイでも小説でもよく使う言葉です。
おぼっちゃんとしてうまれ、没落して、広報官が「人さらい」と言われていた、きつい頃の自衛隊に入り、やめてヤクザになり、次はアパレル経営、その間、中学生時からずっと小説家を目指す。
自衛隊で穴の中でも、ヤクザで借金を取り立てに行った日も、小説を書き続けて40を超えて、やっと賞を取った人。
だからかこの人の本は、心の底から笑えて、心臓を鷲掴みにされるほどに涙が落ちる本がある。
はじめは、タイトルの言葉を見ても、表面上しか理解できなかった。
我が身も焼くような憎悪を抱いてからは、言葉の意味を理解できた。
そして昔、友人との邂逅で、違う方向からタイトル通りの出来事になったことがある。
この友人は、自業自得もあるが、出会ったときにはすでに谷あり谷ありの人生を送ってきていた。
仕事で初めて出会ったとき、その過去は知らなかったが、挙措と顔つき、物腰のやわらかさを見て、
「この人は知的で、優しそうで、苦労を重ねてきている。この業界では中々会えない人だ」
と思い、望んで友人になった。
まあ、知的で優しいのは本当だが、この業界の特性も十分に持ち合わせていた、粗雑なところもある人間だった。
ただ、会話がどうにも不器用な気がしてほっとけなかった。仕事関係の知り合いは多いが、親しい友人は果たしているのか?と思えるような不器用さ。
ある時、その友人と、久しぶりに一緒の仕事場で働くことになった。
まあ、趣味も、性格も、好きなものも、好きなタイプもまったく違うので、ごはん以外に会うことはあまりなかったが。
そんな彼が、その県から次の出張に行く頃、ごはんに誘おうとLINEをした。その県を出てないか確認のために。
「今日出るん?」
と。
これが、未読のまま1日、2日、1週間。
これはおかしい。まさか。。。とは思ったが、まさかの考えだったので、頭によぎったくらいだ。
そんなとき、たまたま仕事場で共通の知り合いに会ったので聞いてみると、両手を拳にして、手首をくっつけて揃えて前に突き出してきた。まさかの「まさか」だった。
性格を考えたら、あり得ない。あり得たとして、ギャンブル?意識飛ぶくらいに酔っぱらってケンカになったか?ぐらいしか思いつかない。それでも無理がある。
で、一ヶ月後にラインがきた。
「釈放!」
と。
私は、
「今日(この県を)出るん?」
と一か月前に聞いたことに対して一ヶ月後に、
「出た(檻から)」
と答えが返ってきたところに、面白味を感じたことは否定しない。
放免祝いを請求されたので、その日は久しぶりに晩御飯に行った。
車で家に迎えに行った。
私は車をさっと出て、腰をかがめ、左手を左足内ももに添え、右手の手のひらを上にして右ひじに置いて、上目遣いに言いたかった言葉を吐いた。
「おつとめ、ご苦労さんです!」
「うっさいわwww」
と。
どうやら、みんなに言われたらしい(笑)
詳しく聞いた。
詳しくは書けないが、善意で貸したお金を返してもらいに行ったら、返す気が無く、あれよあれよとこうなったようだ。
厳密に言えば、法では友人が悪いが、人としてはまったく悪くない。
100%私の推測だが、友人がこうなるまでが一つのストーリーの貸し借り、としか思えなかった。
現実は小説より奇なんです。
この人の賢さ、優しさ、くぐってきた悲しみはこの言葉に表れていた。
「この話は、俺の視点からの話だから、お前は俺を擁護するが、あちらの視点から聞けば、違うかもしれんよ」
と言った。
私の人を見る目に間違いはなかった。
こういう、うらみつらみがあっても、冷静に相手の視点からも考えられる友人を探していた。こういう人は本当に少ない。
その晩、色々な話を聞きながら、私たちは笑いがとまらなかった。
友人の人生があまりに悲しくて、自分の人生も照らし合わせ、私も泣きそうになってきたが、自然と大声で笑ってしまった。
『笑っていなけりゃ泣いてしまう』とはこのことなのだ。
この日の食事は人生でベスト5に入るくらい良い食事だった。
彼は、
「ビールがうまい!」
と、人生でNo.1の笑顔で言っていた。
次同じようなことになったときは、
「本を3冊持って面会に来て」
とのことだった(笑)
そのときは、浅田次郎先生の『初等ヤクザの犯罪学教室』を持っていこう。
たぶん、おまわりさんに怒られるだろうが、ご愛敬である(笑)