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地政学的に不安定な国ランキング!!

 以前の記事で地政学的に困難な立地にある国のランキングを作成した。やや被ってしまうが、今回はちょっと見方を変えて地政学的にどう見ても無理があるよなと思われる国をランキングにしてみたいと思う。国家は必ずしも自然に成立するものではなく、列強が勝手に国境を引いたり、民族的な事情があって不自然な形になることがある。このような国家は近代以前は決して生き残ることができないのだが、近代の場合は国際社会の善意の下で成り立ってしまうことがある。今回はこうした明らかに無理のある地政学的立場の国を考えてみたい。

第10位 カナダ

 カナダという国の存在意義は今一つはっきりしない。アメリカ独立戦争の時にイギリスに忠実だった地域の名残なのだが、この国は地政学的に著しく不安定だ。

 カナダの人口の大半はアメリカとの国境に張り付くように住んでいる。お互いとの行き来よりもアメリカとの交流の方が遥かに容易い。その上カナダはケベック州のフランス語地域によって二つに分断されている。このような国家は少しでも政情不安があれば容易に崩壊してしまうはずだ。

 例えばアメリカが少しでも北に進めば西部と東部の連絡は不可能になる。ケベック州が独立すればニューファンドランドやノバスコシアは飛び地になってしまう。最大の人口密集地帯のトロント周辺はアメリカに深く食い込んだ形になっている。カナダは例えるならば盾に高く積まれた積み木のような状態であり、少しでも突かれればあっという間にバラバラになってしまうのだ。

第9位 クルディスタン

 クルディスタンは中東に住むクルド人の居住地域のことを差す。クルド人は世界最大の少数民族と言われ、独立国家になってもおかしくない人口を持っていながら国を持っていない。その理由の一つはクルディスタンの位置が絶妙に地政学的に間合いが悪いからだ。

 クルディスタンはトルコ・イラン・イラク・シリアの国境地帯に位置している。この地域は山岳が多く、防衛には適した土地だ。クルディスタン国家が成立してもある程度やっていけるようにも思える。イラク側においては石油が豊富に産出しており、経済的にも何とか食っていけそうだ。

 しかし、クルディスタンは実現しない。理由は西側陣営の国も東側陣営の国も両方ともこの国の独立を否定しているからだ。クルド人の独立に最も敵対的な国はトルコである。この国は100年に渡ってクルド人を弾圧してきた宿敵とも言える存在だ。トルコが反対するため、西側はクルド人の独立を応援できない状態にある。トルコとクルディスタン、どちらが重要かと迫られればどうしてもトルコが勝ってしまうだろう。

 じゃあ反米国家に頼ろうともなるが、イランはやはりクルド人の独立に反対している。フセイン時代のイラクもクルド人地域に侵攻して虐殺を繰り返していた。イラクはイランのクルド人を支援し、イランはイラクのクルド人を支援していたが、これではクルド人が分裂するだけだ。

 こうした事情があって、クルディスタンは味方になってくれる国が存在しない。西側はトルコに、東側はイランに配慮してしり込みしてしまう。唯一絶対的な見方はイスラエルだが、中東のど真ん中でこの国と友好関係を結ぶことは死を意味する。

第8位 イスラエル

 この国については今までもさんざん記事にしてきた。イスラエルは敵地であるアラブ世界の中央に位置し、しかも国土が狭小で細長い。正直、この領土を守るのは容易ではない。なんでこんな場所に国家を作ったのか、地政学的には狂気の沙汰だ。地政学的な安定性よりも宗教的な意義を優先したということだろう。

 この国の不安定な地政学的立場は常に戦争の原因になっている。アラブ世界に無理やり人工移植した組織のような国なのだ。当然周囲からは拒絶反応が起こる。イスラエルの入植地はアラブ世界から見るとガン細胞の浸潤のように見えるのだろう。

第7位 アラブ連合共和国

 これもパキスタンとほぼ同じである。ナセル時代のアラブ世界はアラブ統一構想が非常にもてはやされた。アラブ世界のあちこちにナセルの支持者が存在した。シリアはあまりにナセルが好きすぎて一時期エジプトと合併していたことがある。国家が自発的に合併するのは大変珍しい事象だ。

 最もこの関係は長続きしなかった。シリアはほどなくしてエジプトから送り込まれた官僚にあれこれ指図されることに気が付き、統一への幻想は冷めてしまった。シリアはクーデター政権が交代し、再び独立国に戻った。

第6位 サハラ・アラブ民主共和国

 西サハラは帰属が未定の地域の一つだ。西サハラはモロッコが勝手に自国領と主張しており、モロッコが主要部分を支配して入植を進めている。モロッコの支配に抵抗するポリサリオ戦線が支配しているのがサハラ・アラブ民主共和国だ。地図の緑の地域が該当する。モロッコ支配地域との間には砂の壁という軍事境界線が引かれている。

 それにしても不自然な形状である。この未承認国家はどうやって交通を確保しているのだろうか。西サハラは砂漠ばかりでかなりの過疎地域だ。したがって道路なども皆無だろう。西サハラの人口は60万人だが、多くはモロッコ支配地域に住んでいるので、サハラ・アラブ民主共和国の人口はかなり少ないと思われる。ほとんどが遊牧民だろうか。人口が少なく地政学的にも不安定な形をしているが、砂漠という障壁で意外にしぶとそうなのでこの順位とした。

第5位 ボスニア・ヘルツェゴビナ

 うまく行っている多民族国家も世界には沢山あるが、ヨーロッパは民族自決が流行していた土地であり、一つの民族に一つの国家を与えるべきだという考え方が主流になっていた。これは東欧に数々のトラブルを引き起こしたのだが、その中の一つがボスニアヘルツェゴビナである。

 ユーゴスラビアが解体された時もそれぞれの民族が自分の国を持ちたいとして独立していった。ところがボスニアの場合は民族自決の理念に基づいて独立したのに、中心となる民族が存在しないのである。民族が混ざりすぎてどの国にも編入できない「残余」の地域だったからだ。この国の民族はムスリム人・セルビア人・クロアチア人に三分されており、ボスニアという国に帰属意識を持ちようがなかった。おまけに居住地域もぐちゃぐちゃに混ざっていて、うまく国境線を引くことは不可能だ。

 ユーゴスラビアは一応チトー率いるパルチザンの正統性と南スラブ人としてのまとまりが存在した。しかし、ボスニアにそのような存在はない。三民族を一つにまとめる共通の何かが全く欠如しているのだ。セルビア人はセルビアとくっつきたがるし、クロアチア人はクロアチアとくっつきたがるし、ムスリム人は右往左往していた。しかも三者の関係は極めて悪く、殺し合いを辞さないレベルだった。第二次世界大戦中もユーゴ紛争の時もジェノサイドで多くの血が流された。現在は事実上、EUの委任統治領となっている。

 余談だが、筆者はみずほ銀行の旧行意識の話を聞いているとボスニアを思い起こす。

第4位 イスラム国

 2014年、武装勢力のISISがイラクからシリアの地域を征服し、イスラム国と名乗り始めた。人口200万人のモスルがあっさり陥落したのは驚きだった。彼らは自分たちの支配領域を「国」であると宣言し、列強が勝手に引いた国境線をサイクスピコ体制だとして否定していた。

 イスラム国は国家の存続とは何かを考える重要な例だった。領土・国民・政府が存在していればそれは国なのかという話である。イスラム国は国ではないということを各国は熱弁していたが、それなら台湾はどうなのか、北朝鮮はどうなのか、とキリが無くなってしまう。

 イスラム国は地政学的に極めて不安定だった。というより、地政学リスクそのものだった。イスラム国の愚かなところは、目に入る全ての勢力に攻撃を仕掛けたことにある。普通はアメリカが嫌いだからロシアと仲良くするとか、いろいろ考えるものだが、イスラム国は本当に全てを攻撃した。西側もロシアもイランも全て攻撃の対象とされた。アルカイダすら彼らにとっては敵なのだ。国家承認を求めるために国際社会のルールを尊重しようという気は毛頭なく、欧米に幾度となく残虐なテロ攻撃を仕掛け、世界の敵として扱われた。当然、数年と経たずにイスラム国は消滅している。

第3位 パキスタン

 ここでいうパキスタンは1970年より前の状態のことだ。実はバングラデシュは以前はパキスタン領だった。英領インドのうち、イスラム教徒が多い地域が分離して誕生したのがパキスタンである。

 パキスタンの地政学的な性質はどう見ても不安定だ。国土が大きく東西に分断され、その間にインドが横たわる。しかもインドとは常に激しい対立関係にある。アラスカのような人口稀薄地帯ならまだ良いのだが、東西パキスタンは人口が同じくらいだ。しかも言語や文化は大きく異なる。これでは崩壊するのも時間の問題だろう。東西パキスタンはスリランカ経由で船で連絡するしかなかったようだ。

 統一パキスタンは20年強しか持たなかった。東パキスタンが主導権を握られていることに反発し、暴動を起こしたのだ。西パキスタンはすぐさま鎮圧軍を送り込むが、最終的にインドが軍事介入してパキスタン軍は降伏した。パキスタンから見ればインドの南を船で頑張って移動して東パキスタンに到着しているのだ。どう考えても戦争には不利だろう。

第2位 沿ドニエストル共和国

 旧ソ連にありがちないわゆる未承認国家というやつである。モルドバが独立した時にロシア系住民の多い地域が暴動を起こして事実上の独立地帯となった。この手の話は旧ソ連にいくらでもあるが、この国の場合は形があまりにも独特すぎるのだ。

 ドニエストル川の東岸に位置しているのだが、ものすごく細長い。ここをロシア軍が駐屯して沿ドニエストル共和国が消滅しないように見張っている。一応、住民の行き来はできるようだ。モルドバはこの問題があるため、西側に接近したりEUに入ったりはできないようになっている。

 沿ドニエストル共和国の立ち位置をさらに異様にしているのは2022年のウクライナ戦争だ。もし戦争が計画通りならば、沿ドニエストル共和国はロシアと接続していただろう。しかし、侵攻は大失敗に終わり、ウクライナは明確な反露国家になった。沿ドニエストル共和国は東西から挟まれたロシアの飛び地のようになっている。ロシア兵がいなければあっという間にこの国は消滅してしまうだろう。

番外:チリ

 一見地政学的に不安定に見えて、意外にそうでもない国も存在する。チリがまさにそうだ。チリは細長く、不自然に見えるが、意外にしっかりした地理的基盤がある。アンデス山脈はヒマラヤ山脈に次いで二番目に急峻で、交通が困難だ。南米大陸はアンデス山脈によって二つに分断されている。チリはアンデス山脈の西麓に張り付くように陣取っており、アルゼンチンとは行き来が難しい。カナダとはわけが違うのだ。

番外:チェコスロバキア

 第一次世界大戦後、オーストリア帝国は解体されて複数の小国が生まれた。この時にユーゴスラビアとチェコスロバキアを回廊地帯で結ぼうというアイデアがあったらしい。同じスラブ人の国として一つになろうということだ。

 ただどう見ても国家として不安定なので、却下されたらしい。そもそも汎スラブ主義はオーストリア帝国による反発のレトリック以外の意味があまりなく、地理的にも歴史的にもバラバラなスラブ人がたまたま言葉が似ているという理由で組まなくてはいけない必然性はどこにもないのだ。

第1位 パレスチナ

 筆者が考える、地政学的に不安定な国のワースト一位はパレスチナである。パレスチナ問題が解決困難な理由はいくつもあるのだが、特に深刻な問題となっているのが、パレスチナ独立国家の領域だ。パレスチナはどのように線引きしても地政学的に無理のある形状になってしまうのだ。

  まずは最初の国連パレスチナ分割決議を見てみよう。オレンジのアラブ人国家は三つに分断され、その間を蛇のようにユダヤ人国家が存在している。二か所の立体交差で両国は交わっている。一目見て異様な形状だと分かる。今までに挙げたどの国にも見られない異様さだ。連邦制ならともかく、独立国家となると安全保障をどうするのかという問題が出てくる。うまく行かないのは明らかだろう。

 次に第一次中東戦争で決定された実際の領域を見てみよう。

 国連決議で認められた領土の一部は奪われており、本来よりも縮小している。この領域が国際的に認められているパレスチナ領土だ。自治政府もあり、世界の多くの国は国家承認している。先ほどよりは自然な形だ。それでもかなり地政学的に異様な形をしているのは間違いない。国土が西岸とガザに二分されている。パキスタンはまだ海に面していたが、パレスチナの場合は陸に囲まれてしまっている。敵国イスラエルの領内を通らなければガザと西岸は行き来できない。この奇妙な地理のおかげで西岸の自治政府とガザのハマスの間で分裂が起きてしまった

 次は第三次中東戦争の和平案として秘密裡にヨルダンとの間で交渉された案である。

  青の部分をイスラエルが併合し、緑の部分はヨルダンの領土となる。ヨルダン本土とは細長い回廊でつながっており、南部の飛び地との交通はイスラエルが保証するといった具合だ。南部は完全に陸の孤島になってしまっている。まるで西ベルリンのような形だ。またまた異様な形状の国家になってしまったわけだ。安全保障上重要な国境地帯をイスラエルが併合したがることが原因だ。この案は大人の事情でヨルダンに却下される。

 続いてトランプ政権下で提示された和平案だ。

 これまで見たどの国境線よりも異様な形状をしている。これはイスラエルが国境地帯を確保したいことに加え、入植地を作りまくったことが理由だ。ただでさえ分離困難なのに、イスラエルは進んで混ざりに行っているのである。ガザ地区は砂漠地帯に謎の領土が連結されており、エジプトとの間にはイスラエルの細長い領土がある。西岸は三つに分断されて陸に封じ込められているだけではなく、モザイク状に分断されており、入植地までの無数の虫食いのようなイスラエル領土が食い込んでいる。領土と領土の間は専用道路で結ばれており、立体交差になっているらしい。このような異様な形状の国家が独立したらどうなるのか見てみたい気もするが、自治政府は当然のごとく即時却下している。

 最後に、現在のパレスチナ国家の領域はこうなっている。

 西岸地区は無数の飛び地の集合体となっている。国際的に認められたはずのパレスチナ自治区の大半は実際はイスラエルの領土となっており、パレスチナ人は飛び地状の領土に押し込められている。ガザ地区との分断は相変わらずで、交通は全く不可能である。パレスチナを国家とみなせば、近代で最も異様な形状の国家となるだろう。戦争の結果次第ではガザ地区に自治政府が復活し、再統一がされるだろうが、この場合はガザ地区も同様に細切れにされるだろう。

 力関係の都合でイスラエルに有利でパレスチナに不利な領土分割になっているが、国連決議の時点で地政学的に無理のある形状になっており、二国家の存在自体が可能なのか怪しい。


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