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令和になって少子化が加速したのはポリコレのせい?

 常に騒がれる少子化だが、あまりにも長きに渡って騒がれているため、もしかしたら事態の深刻さに気がついていない人も多いかもしれない。この国の少子化は令和になってから急に加速している。本当にアクセルを踏み込んだような状態である。もはや平成に騒がれていた少子化とは別種の領域に入ってしまっているようだ。

 今年の1月から3月の出生数は前年度に比べて6.4%ほど減少したとされる。このペースでは2024年の出生数は68万人にまで減少することになる。前代未聞のペースである。年間出生数が100万人を切ったのが2016年だから、なんと8年で3分の2になったことになる。年間出生数が150万人を切ったのは1984年だ。令和の少子化のペースは平成の少子化のなんと4倍のペースということになる。日本人が経験したことにない異次元の水準である。

 具体的に少子化が加速したタイミングを探ってみよう。

 年間出生数の急減が始まったのは2016年辺りである。なんと年間5%のペースで出生数が減少している。ただし、これには親世代の人口が減少していることも考慮する必要があるだろう。出生減の原因には①親世代の人数が少ない②子供を産まなくなった、の二種類の要素があるのだ。

 ②を表すのは合計特殊出生率の方である。こちらが急減したのは2019年だ。しばしば急速な出生減の原因はパンデミックと言われるが、もしそうだったら影響が現れるのは2021年からのはずだ。「少子化アクセル」が始まるのは2019年頃だから、実際はあまり関係なかったことになる。

 なお、上記の図表を見て2000年代後半に特殊合計出生率が上昇したことに気がついた人もいるだろう。これの理由は親世代に当たる1970年代の「ロスジェネ世代」が晩産化を進めたからというのが定説である。この世代は人数が多く、統計上の影響が強いのだ。この「晩産シフト現象」はリアルタイムで把握するのはなかなか難しい。

 さて、この原因は一体何か?筆者はなんとなくではあるが、原因は思い浮かぶ。それは2010年代に進んだ女性登用の流れである。

 親世代に注目してみよう。1990年代に出産していたのは1960年代の「バブル世代」だ。この世代はまだまだ旧態依然としてジェンダー観が残っており、女性の憧れの的は一般職からの寿退社だった。2000年代に出産していた1970年代生まれの「ロスジェネ世代」は就職氷河期でキャリアどころではなかった。変化がでてくるのは1980年代生まれからだ。この年代がまだ退職していない2010年代に安倍政権の下で女性登用の流れが急に加速した。企業も積極的に女性の登用を勧めることが対外的なアピールに有効だと気が付き、次々と右ならえで女性登用を進めた。現在アラフォーに辺るこの世代の女性は明らかに仕事を持っている割合が高いし、企業等にも沢山見かける存在だ。

 ただ、1980年代生まれが女性登用の潮流に直面したときは彼らはアラサーになっていた。したがって彼らの家庭形成に関する価値観はすでに形成されていただろう。この時点で結婚していた人間も多いはずだ。したがって、1980年代生まれが出産適齢期だった平成末期の日本はまだ子供が生まれていた。

 問題は1990年代の「ゆとり世代」が就職した時だ。この世代はすでに就職した時点で女性登用の流れが明確になっており、1990年代のような伝統的なジェンダー観を前提に就職した者は少なくなっていた。筆者の大学時代も一般職をイメージしていた人間は皆無であり、男女で人生のコースが異なるという前提は存在していなかった。女性総合職が当たり前となった最初の世代である。

 また、ゆとり世代は草食化が話題となった世代である。この世代の男女交際への志向は1980年代生まれとは大きく異なる。

 80年代生まれはは伝統的なジェンダー観が崩壊した一方、かなり男女交際には奔放な世代と言えるだろう。90年代生まれは男女交際にかなり消極的だ。これは1980年代生まれを中心とするモーニング娘が色々と騒動ばかりなのに対し、1990年代生を中心とする乃木坂があまりそういった騒ぎがない辺りからも分かる。(ヲタクの執着度は乃木坂の方が高いが、モー娘。は話題にすらならないと言った方が正しい。)

 総じて1990年代生まれは女性登用が当たり前になっているため、キャリア形成に気を取られて結婚どころではなく、その上もともと男女交際に消極的ということが言える。その上、この辺りの世代は少子化の影響で労働者が売り手市場であり、伝統的なJTC的人生観が消滅し始めた世代でもある。昔は終身雇用と年功序列の下で上司から「結婚せよ」と圧力が掛けられたが、最近はポリコレ等の影響でそうした発言はタブーだ。その上多くの若者がワナビー化しているため、人生の夢を追い求めてますます結婚が遅くなっているのではないかと思う。

 一つ気になるのは70年代が経験したように、90年代生まれも晩産シフトが進むのではないかという点だ。この前提に立つと、現在の少子化アクセルは数年もすれば緩和あるいは反転することになる。出生率は2005年ごろに底を打った後、2015年辺りまで緩やかに上昇していた。この反転現象は人口の多い70年代生まれが30代後半に駆け込み出産を行ったからだった。この期間にかけて平均初産年齢は4歳ほど上昇している。ただし、この値は2016年頃に31歳でプラトーに達し、動いていない。第二子、第三子が上昇しているのと対照的だ。となると、令和の少子化アクセルの原因は晩産化ではない可能性が高い。90年代生まれは本当に子供を産まなくなっているのである。

 令和の少子化アクセルの原因が女性登用の急速な進行にあるというアイデアはかなりセンシティブかもしれない。最近の日本社会のポリコレに大きく反するからだ。しかし、そう前提を置けばいい具合に説明が付くのである。これまでは女性は結婚と寿退社への強い圧力が掛けられていたが、近年はキャリア形成への圧力が書けられるようになった。当然フルタイムで重労働となれば結婚や家庭に割けるエネルギーは減少することになる。

 奇妙なことに、少子化対策の文脈ではむしろ共働きの拡張が訴えられる事が多い。諸外国は女性の就労率が高い国の方が出生率が高いというのが根拠とされる。しかし、こと日本社会に関しては女性登用と時を同じくして出生率の激減が始まっている。これは偶然なのだろうか。諸外国の出生率の高さも移民の割合や所得格差に起因していて、日本が参考にできるとは限らない。更に言うと「模範」とされていたフランスも最近は出生率が激減してきている。

 政治家は少子化対策を訴える一方で、様々な政治的圧力にさらされている。こうした圧力によって少子化対策は常に明後日の方向に向かう。この手の話の興味深いところは、不用意な発言が予想外の方向から叩かれることである。ポリコレの影響で少子化対策はなぜか女性登用を推進する方向に向かっていく。ただし、こうしたマクロ的な変化は政治家がどのような政策を推進しても進んでいくだろう。少子化を政策的に解決した国はほとんど存在しないのだ。

 1990年代のゆとり世代の下に控えるのはZ世代だ。主に2000年代生まれである。この世代に至っては結婚への願望すら希薄になっているようだ。Z世代の半分は将来結婚を望まないという。ゆとり世代に輪をかけてZ世代は自己実現欲求が強く、その分安定した家庭といった人生観には魅力を感じないだろう。少なくとも、Z世代がゆとり世代よりも子育てに前向きになることは期待できない。むしろ結婚や家庭に変わる新たな居場所や生きがいを探す方向に向かっていくかもしれない。この世代はもはや伝統的なジェンダー観は未知の存在であり、寿退社は奇習に思えるだろう。

 というわけで、少子化は更に加速しており、近い将来に解決される見込みは全く無い。女性のキャリア志向はますます進んでいく。これは少子化で労働人口が減少することや、首都圏不動産価格の高騰などから確実に予想できる。したがってゆとり世代もZ世代も子供の数は少なくなるはずだ。自己実現や長時間労働で忙しく、結婚どころではないからである。今後高齢者福祉の負担が増加することでますます子供に割ける資源は少なくなるだろう。

 この問題に日本社会はどのように対処していくのだろうか。おそらく少子化それ自体を政策的に解決するのは難しいので、知らず知らずのうちに草の根的な変化が生じていくはずだ。だいたい講じられる方策は予想が付くが、それがなぜ実行されにくいのかも含めていつか執筆したい。

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