INFPにとって、理系は悪い選択肢ではない
ここのところ、INFPについて考察記事を書いていたので、派生的な論点として今回の記事を思いついた。しばしば生きづらいと言われるINFPだが、その生きづらさにも程度があって、適職に就いて普通の人生を送れば特に問題がないというケースが多い。筆者の周囲のINFPを見ても、確かに「生きづらさ」について言及する頻度は多いが、別に極端に人生が沈んでいるというわけではないと思う。
さて、INFPの適職として常に挙げられるのは芸術家等である。だが、就職先としてあまり現実的でない。世間であまり認知されていないが、意外にINFPとの相性が良さそうなのは理系就職である。理系分野でINFPが優位に立てるのかは分からないが、他の進路に比べると問題になることが少ないのではないか。
INFPは基本的には文系寄りの性格である。何も考えないとINFPは人文系寄りの選好になるのではないか。大学受験は高度にヒエラルキー化されているので、職業選択と違って性格の違いが露出しにくいが、その中で比較してもT型の方が理系寄りの印象がある。ただ、日本の学歴社会においては頭の良いタイプは理系に行くものとされており、基礎学力が高く、数学に苦手意識がない場合はとりあえず理系志望になることが多いだろう。したがって、INFPであっても一定数は理系に流れるようである。筆者の知る限りでも、東大の理科一類などに進学したINFPは多数存在する。
INFPで理系に進むものは特に基礎学力が高かったり、理数的なセンスが良い人間が多いため、母集団としてはバイアスがかかっているのだが、理系に進んだ者を中心に考えてみると、そこまで予後は悪くないのではないかと思う。まず理系の場合は就職が良い。大手企業に入るだけならそこまで難しくないと思う。理系の場合は旧帝大まで行かずとも、地方国立や四工大辺りまで大手に就職することが可能だ。厳密には専攻によるのだが、理系専門職という強みが手に入るため、就活にそこまで向かないINFPであってもそこまで困らないはずだ。
就職後も同様で、理系研究職はそこまで激しい競争にさらされたり、ストレスフルであることは少ない。勤務地が田舎になったり、場合によっては長時間のハードな仕事になる時もあるが、INFPはこの手のストレスに関しては比較的大丈夫な方である。INFPのこだわりの強さはこの手の仕事においては必ずしもマイナスにはならないのだ。
メーカー等でなくても、IT系に就職してエンジニアになる者もいる。この場合は必ずしも理系専門という感じではないかもしれないが、業界の特性上、比較的フラットな職場が多く、長時間労働のリスクを除けばINFPにとっては困難になりにくいと思う。また、ジョブ型だったり、手に職を持っていたりするので、転職しやすいし、業界の風通しも良いだろう。
筆者はちょくちょく理系のINFPを観測してきたが、知的かつマイペースで、自分の趣味の人間関係を充実させている人が多かった。理系の場合はT型の文化が強く、個人主義になりがちであるため、むしろコミュニケーション能力を発揮して組織の潤滑油になれるかもしれない。理系の進路の時間感覚とINFPは比較的相性が良いように見えるのである。しかも理系の職は「食える」上にパイが多いので、そこまで激しい競争に勝つ必要がない。
一方、文系の場合はそうはいかない。INFPは何も考えないと人文系の専攻になりがちだが、ここに文系学問と文系職種のギャップという大きな問題が発生する。理系の場合は必ずしも専攻を活かせるとは限らないにせよ、大学までのコースとその先のコースに大きな断絶は存在しない。あえて文系就職することもできるが、マストではない。一方、文系学部の場合は専攻を活かせる仕事は研究者くらいしかなく、普通の文系は一般企業か公務員などになる。文系学部と文系職種の断絶は大きく、ここにINFPが躓く原因の1つが隠れている。
INFPが興味を持ちがちな、芸術家等の進路は普通の人には難しい。基本的には生計を立てられないので、現実味に乏しいだろう。したがって、INFPの進路希望はメディア系やその他のクリエイティブ職など、もっと現実的なところに着地するのだが、この手の仕事はかなりの高倍率であり、理系院生がメーカーに就職するのとはわけが違う。入ったところで激務や理想とのギャップによりドロップアウトするケースもある。
したがって、INFPの多数派はそこまで興味の沸かない大企業等にエントリーするのだが、これまた問題がある。文系の就く仕事は基本的に幹部採用か、営業職・現場職などである。前者は組織人適性が高度に問われ、後者は明らかにS型の領域である。どうにもINFPは文系職種との相性は悪いのではないかと思われる。文系職種の場合、末端の仕事は裁量権が乏しく、INFPにとっては面白みが感じられないだろう。一方、幹部になればよいかと言うと、そうも行かない。INFPほど権力行使に向かない人種はいないと言っても良く、出世することに魅力を感じられないのではないか。そもそも理系と違って手に職が存在しない文系にとって、「売り」となるのは体育会系適性や営業力である。INFPはこれらの要素に関してあまり得意ではないだろう。
理系職種は年収等でコンサルや金融といった文系にとっての花形職種に劣ることが多いのだが、これらの業界はストレスフルな競争社会であり、INFPにとっては地獄かもしれない。筆者の観測範囲においても、休職を繰り返して、仕事=闘病生活になっている者もいる。ネットを見ても、クリエイティブ職や専門職に就いているINFPは比較的健全なことが多く、普通の会社員をやっているINFPは不健全状態であることが多い。INFPにとって収入は人生の軸ではないので、理系就職でもらえる額以上の年収はそこまで必要ではない。
いわゆる会社員的な仕事(雇用形態ではなく、会社員として自己を定義しがちな仕事)はぶっちゃけIN型と相性が良くないと思う。IN型のこだわりの強さやマイペースさがことごとく裏目に出るからだ。また、文系職種はノルマ営業や出世競争が核心部分に組み込まれていることも多く、平和主義的で大人しいINFPにとっては苦しいことが多いだろう。金銭に対する感度の良さもESTP・ESTJ等に大きく劣る。INFPはまず就活段階で躓くことが多く、就職してからも何かと辛そうである。文系なのに結局未経験エンジニアになっている者も少なくない。だったら最初から理系に行ったほうが良かったのではないかと思う。
もちろん今回の結論は理系に限ったことではなく、INFPにとっては手に職を付けるに越したことはない。もちろん興味が活かせる仕事に就くのが一番だが、それが難しいことが多いので、手に職を付けてINFPが苦手とするシチュエーションを回避するべきである。IN型のこだわりの強さが活かせない場合、求められる能力が体育会系適性や体力になってしまい、INFPにとってはかなり生きづらいと思う。INFPは社会不適合というが、実のところは文系職種との相性が悪いのに、文系に進路を誘導されがちな点が災いしているだけなのかもしれない。普通に優秀な人は多いと思う。INFPは社会不適合なのではなく、会社不適合なのである。